福原ソープランド 神戸で人気の風俗店【クラブロイヤル】
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れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と空気の缶詰め 様
ご利用日時:2024年3月24日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。5時になると、剣術の稽古を始める。当初、5時起きをみなぎる気合いの為せる業と勘違いしていたようだが、実は加齢の影響以外の何物でもないという現実を馬鹿なりに察したらしく、最近は「眠い、眠い」とボヤキながら、割り箸を至極重たそうに振っている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。れもんちゃんに会う日だけは十分睡眠をとりたいので、昨晩の就寝時に明日は8時まで静かにしているように厳に命じていた。
「約束だぞ。5時に目が覚めても、俺の目覚ましが鳴るまでは、静かにしてるんだぞ」
「うむ。天地神明に誓いまする」
そう固く約束していたのに、今朝も、やっぱり夜明け前に叩き起こされた。
「この無礼者め!手討ちに致す!」とか大声で怒鳴っている。布団を捲って、「うるさい!」と一喝すると、シン太郎左衛門、ハッと目を覚ました。
「今、何時でござるか」
手探りでスマホを探し当て、画面を股間に向けてやった。
「見ろ。5時ジャストだ」
「父上は、5時起きの星の下に産まれてござるな」
「そんな星はない。どう考えてもお前のせいだ」
「うむ。拙者、夢を見てござった」
私はモソモソと布団から起き出し、
「そうだろうな。何の脈絡もなく『無礼者』と叫ぶヤツはいない。俺も夢を見ていたはずだが、お前の罵声に叩き起こされて、記憶が飛んでしまった」
と、部屋の電気を点けた。
「拙者、またしても、れもん星の夢を見てござった」
「夢の中で、れもん星に行く話は以前にもあった」
「いかにも。ただ、拙者が今回れもん星に行ったのは遊びではござらぬ。れもん星の観光大臣から依頼を受け、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』で、れもんちゃんを讃えるスピーチをするため、れもん星に行ったのでござる」
私は、新兵衛(クワガタ)を摘まんで、水槽から出すと、布団の上に置いて、あぐらをかいた。
「それは名誉なことだ。大臣から手紙でも来たのか?」
割り箸を渡してやると、シン太郎左衛門は素振りを始めた。
「うむ。親書が届いた。ディズニーの便箋に『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん。イベントするから、れもん星PRのスピーチしてねっ(ハート)』と書いてござった。イベントのチラシが同封されておった」
手の甲で眠い目をゴシゴシ擦りながら、
「もしかして、れもん星の観光大臣は、れもんちゃんか?」
「それは分からぬ。ただ、こういう機会もあろうかと、拙者、前々から、れもんちゃんを讃えるスピーチを用意してござった」
「それは見上げた心掛けだ」
「拙者、手紙を一読、素早くタキシードに着替え、スピーチ原稿を手にすると、次の瞬間には、南港から出発するポンポン船の甲板に立っておった」
「お前、れもん星を舐めてるだろ?何で毎回、船で、れもん星に行くのだ。ちゃんとロケットに乗れ」
シン太郎左衛門は真面目に素振りを続けながら、
「船に乗ったものを、嘘は吐けぬ。『シン太郎左衛門』シリーズは、ドキュメンタリーでござる。出来るものなら、拙者もロケットがよかった。港を出た途端、船が波をかぶり、折角のタキシードはズブ濡れ、原稿もどこかへ行ってしもうた」
「船で行くからだ」
「うむ。そうこうしているうちに、小船は港に入り、早くも、れもん星に到着しておった」
「れもん星って、そんなに近いのか?今の話を聞く限り、れもん星の最寄り駅はユニバーサルシティ駅かもしれない。近畿圏なのは間違いない」
「真面目に考えてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そりゃ、そうだ」
シン太郎左衛門は引き続き割り箸を振り回している。
「今回も、周りに何もない殺風景な港に到着いたしたが、波止場には『歓迎 シン太郎左衛門様 ~よく覚えてないけど長い名前のシンポジウムへようこそ~』と横断幕が掲げられておった」
「れもん星人は、かなりいい加減なヤツらだな」
「うむ。船から降りると、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく出迎えてくれるスタッフさんにそっくりな『れもん星人』が出迎えてくれた。周りには、10人程の小学生のマーチング・バンドが控えておった。彼らも当然『れもん星人』でござる」
「心温まる歓迎風景だ」
「うむ。スタッフさんが、『ようこそお越しくださいました。会場まで約4キロございます』と先導してくれて、歩いて会場に向かった」
「徒歩なの?」と私はあくび混じりに言った。
シン太郎左衛門は益々元気に素振りを続けながら、
「うむ。道々子供たちがリコーダーで『ドナドナ』を吹いてくれた。スタッフさんがバトンを振ってござった」
「リコーダーのみのマーチング・バンドというのは斬新だが、『ドナドナ』とは微妙な選曲だな」
「うむ。悲しいメロディに合わせて、スタッフさんは満面の笑みを浮かべ、陽気にバトンを振っておった。『蛍の光』も演奏してくれた」
「通常、帰宅を促すのに使われる曲だな。『さっさと帰れ』という意味だろう」
「なるほど。とぼとぼ歩いて着いたところが、国を挙げたイベントの会場とは思えぬ場所でござった」
「具体的に言うと?」
「野原にポツンと建った小さな建物。形は駅前の派出所に似ておった」
「イベント会場とは思えん・・・警官が詰めているのを見たことがないし、最近は灯りも点いてない」
「うむ。スタッフさんに促され、派出所にそっくりの建物に入ると、『まあ、座れ』と椅子を勧められ、まるで取り調べが始まりそうな雰囲気になった」
「こんな短い滞在期間で、お前、法に触れることをしたのか?・・・あっ、そうか。お前の姿を小学生の目に晒したのはマズかった。猥褻物陳列罪だ」
「うむ。拙者も、それに気付いて、すっかり観念した。何のために、れもん星まで来たのか、と悲しくなってござる」
「『ドナドナ』の謎が解けた。しっかり逮捕されたか?」
「ところが、結局、取り調べもされなんだ。そこは派出所ではなく、気が付けば、壁際に1台ガシャポンがあった」
「・・・またガシャポンか?ここで、前回れもん星に来た話に合流してしまった。もう後の展開は聞くまでもない」
「うむ。拙者がガシャポンを見詰めているのを察したスタッフさんが『シン太郎左衛門さんの出番までは、まだたっぷり時間がありますから、ガシャポン、どうですか?1回2000円です』と言った」
「前回より値段が上がってる」
シン太郎左衛門は疲れてきたらしく、息を切らして割り箸を重たそうに振っている。
「賞品のグレードが上がっているとのことでござった。拙者が黙っていると、スタッフさんは『豪華なれもんちゃんグッズが当たりますよ。特等は、れもんちゃんの実物大フィギュアだ!!』と叫んでござる」
「それは、気持ちが動くな」
「更に『末等の10等でさえ、これだ!!れもんちゃんトートバッグだ!!』と叫んで、実物を見せてくれた」
「よく叫ぶスタッフさんだ」
「うむ。ただ、その『れもんちゃんトートバッグ』が実に可愛かった!!」
「お前まで叫ばんでいい。当たり前だ。『れもんちゃん』と名前に付いていれば、可愛いに決まってる。丁度、買い物袋が壊れて困っていた。絶対に欲しい」
「拙者も欲しかった」
「特等は無理だ。末等のトートバッグを狙え。当たるまで、お前は、れもん星から帰って来なくていい」
「ところが、そんな甘い話ではござらなんだ」
「だろうな。もし、れもんちゃんグッズが当たっていれば、お前は死んでも、れもん星から持ち帰ってきたはずだ」
「いかにも」
シン太郎左衛門は疲れ果てて、布団の上にペタンと座った。
「で、何が当たった?またモモンガの缶バッジか?」
「今回は缶バッジではござらぬ。れもんちゃんの等身大フィギュアが当たる気は致さなんだが、れもんちゃんトートバッグが当たれば、父上も、さぞやお喜びと思い、スタッフさんに『では、一回やろう。だが、くれぐれも、モモンガの缶バッジではないな?』と確かめた。缶バッジは入っていないとのことでござった。2000円渡して、コインを受け取ったとき、スタッフさんが気になることを言った。『れもん星の素敵な特産品も当たりますよ!!』」
「待て待て、それはマズい。俺たちが欲しいのは、れもんちゃんグッズであって、れもん星の特産品ではない」
「うむ」
「・・・分かった・・・お前が当てたのは、れもん星の特産品だな」
「うむ。ガシャポンを回すと、カプセルが出て来て、中には小さく畳んだ紙が入っておった。開くと『3等』とあった。3等は『れもん星の空気の缶詰め』でござった」
「ラベルに、れもんちゃんの写真が使われていて、メチャクチャ可愛いとか?」
「ラベルなど貼られておらぬ愛想のない缶でござる。マジックで『空気』と手書きされておった」
「要らん要らん。俺は小学生のとき、近所に住む人から『スイスの空気の缶詰め』というものを貰ったことがあるが、開けたら鉄サビの臭いがしただけだった。スイスの印象がかなり悪くなった」
「拙者、元々、缶の類いは好かぬ。スタッフさんに、末等と替えてくれるように頼んだが、断られた。意地になって、追加で2回挑戦したが、残念ながら2回とも1等、『れもん星の空気の缶詰め(特大)』でござった。要は、『空気(特大)』とマジックで書かれた、ただの大きな缶でござる」
「1等のくせに、かさ張るだけで、お土産にしても誰にも喜ばれない」
「嫌われる覚悟がなければ、人には渡せぬ。スタッフさんから、『これ、どうやって持って帰ります?全部まとめて、紐を掛けて、持ち手を付けましょうか?』と訊かれたので、腹の中は煮えくり返っておったが、平静を装い、『いや。そこまでしてもらうのも恐縮。お世話になったお礼に、貴殿に差し上げまする』と言うと、スタッフさん、『こんな変なモノ、要りませ~ん』と大爆笑してござった。それで思わず・・・」
「『無礼者!』と叫んだ訳だな」
「うむ」
「・・・くだらん。なんて下らない話だ。今度こそ、本当に、れもんちゃんに怒られる。『下らないにも程がある』って、真顔で怒られる」
「うむ。では、今回を最終回と致しましょう」
「そんなの、何の意味もない。お前の夢に出てくる『れもん星』には夢も希望もない。こんな話をクチコミに揚げたら、れもんちゃんのイメージを損ないかねない。本当に素晴らしい娘なのに」
「うむ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちにも失礼だ。みんな、いい人ばかりだ」
「うむ・・・ところで、Bの手紙の解読は済んでござるか」
シン太郎左衛門には、旗色が悪くなると、話を逸らす悪い癖があるが、私は話を戻すことさえ面倒くさいと思ってしまう横着者だった。
「まだ手も付けてない」と言うと、新兵衛を摘まんで、おウチに帰してやった。
こんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。言うまでもなく宇宙一だった。
「れもんちゃん、今回のクチコミ、すごく下らないけどいい?」と尋ねると、「うん。いいよ」と、宇宙一可愛い笑顔で答えてくれた。普通、こういう場面では、(だって、毎回下らないし)という心の声が聞こえてくるものだが、れもんちゃんに限っては、そういうことさえない。気立てのよさも宇宙一だった。
ついでに「れもん星って、割りとユニバに近かったりする?」と訊いてみようとしたが、無意味なので止めた。
彼女の故郷がどこにあろうと、れもんちゃんの魅力の総体を収めきるには、地球は余りにも小さすぎた。
シン太郎左衛門と空気の缶詰め 様ありがとうございました。
あき【VIP】(26)
投稿者:Ifix様
ご利用日時:2024年3月23日
あきちゃんに優しく話したり、愛撫してあげたら、あきちゃんの表情がどんどん和らいで、楽しい時間が過ごせ、〇〇まくった。
Ifix様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と謎の手紙 様
ご利用日時:2024年3月17日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近も、やっぱり朝5時に起きて、「やあっ!とおっ!」と、クワガタと一緒に剣術の稽古をしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。
約1時間の稽古を終えたシン太郎左衛門は大きなアクビをして、「ああ~、眠たい」と、ふざけたことをぬかした。
同じく朝稽古を終えた新兵衛(クワガタ)を摘まんで、蓋付きの小さな水槽(メゾン・ド・新兵衛)に戻しながら、「昨日の夜、寝る前に、『明日は、れもんちゃんに会う大事な日だから、8時までは絶対に起こすな』と言ってあったはずだ」と苦言を呈した。
「うむ。忘れてはおらなんだが、5時になると勝手に目が覚めてしまうのでござる」
「目が覚めても構わんが、静かに横になっていればいいものを、『やあ』だの『とお』だの奇声を上げて、割り箸を振り回しやがって・・・ひどい話だ」
「うむ」
「『うむ』じゃない。真面目に5時起きを改めろ」と言ったが、シン太郎左衛門は、またもや大アクビをかまして、
「ところで、シン太郎左衛門シリーズは前回で終わったのではござらぬか」と話を逸らした。面倒くさいと思うと、すぐ話を逸らすのは、ヤツの悪い癖だが、話を戻すのも面倒くさかった。
「ああ、前回のあれね。あれは、大した意味はない。一旦普通にクチコミを書き終えた後、もし仮に、この話を最終回にするとしたら、どんな風にしたらいいんだろうという素朴な疑問が湧いた。それで、何となく数行書き加えたら、結構いい具合に最終回っぽくなった。ただ、それだけのことだ」
「・・・そんなものを普通に投稿したと?」
「うん」
シン太郎左衛門は呆気に取られた様子で、「普通そんなこと、する?」
「知らん。元に戻すのが、面倒くさかったというのもあるが、『シン太郎左衛門』の普通の回がわずか数行の改変であっさり最終回になるって、凄くないか?なんか手品みたいで楽しかった。これからも、最終回に変えられるものは、どんどん最終回に変えて投稿しようと思っている」
「駅前の靴屋が、年中、閉店セールをやっているのと似てござるな」
「・・・特に、そうは思わん」
こんなことを話していたが、とにかく連日の寝不足で、私は頭がボーっとしていて、何を話しているか、ほとんど自覚がなかった。
新兵衛に朝御飯(砂糖水)を用意すると、表に新聞を取りに出た。新聞を取り出すと、その下に例の封筒があった。迷いはあったが、意を決して取り出し、差出人を見ると、案の定Bからだった。
リビングに戻ると、
「シン太郎左衛門、あの手紙はやっぱりBからだった」
「なんと書いてござった?」
「まだ読んでいないが、この封筒、随分と軽い。中身を入れ忘れたのかもしれない」
ジャージのズボンからニュッと顔を覗かせたシン太郎左衛門に、「開けてみられよ」と言われ、封を切ってみたが、便箋らしいものは見当たらなかった。逆さにして振ってみると、折り畳まれた小さな紙片が転がり出た。開いてみると、小さな字で一言「続報を待て」とだけ記されていた。
「何だ、これ?・・・見てみろ」とシン太郎左衛門に渡した。
「・・・分からぬ」
「こんなものをわざわざ速達で送ってきた。言っておくが、Bに限ってウケ狙いも悪ふざけもない」
「変なヤツでござる」
「そうだ。Bは変人だ。見た目からして、普通ではない。とにかくデカい」
「おチンが?」
「いや。おチンはともかく、身長が2メートルほどある。それでいながら、手足は長くない。やたらと胴が長い。だから、立っていても、座っても、頭の位置は、さして変わらない。隣の席に座られると、こっちだけが座っている感覚になる。『横に立たれると鬱陶しい。お前も座れ』と言いそうになる」
「なるほど」
「顔も長い」
「横に?」
「縦にだ。目が小さくて、口は大きい。鼻筋は妙に通っている。どんなときも無表情。冗談は一切通じない。学生時代は一貫してマッシュルーム・カットだった」と言いながら、折り込み広告の裏面に描いたBのイラストをシン太郎左衛門に見せた。
「大体こんな感じ」
「・・・伝わらぬ。父上は絵が下手クソでござる」
「そうか?かなり特徴を掴んでいるが・・・まあいい」
私は、封筒をバラバラに分解し始めた。
「父上、何をしてござる」
「本文を探している。本文もないのに、『続報を待て』は、おかしいだろ?どこかに、メッセージの本体が隠されているはずだ」
「なるほど。封筒に秘密がありまするか」
「分からん・・・見る限り、特に変なところはない。炙り出しかもしれん」
「炙り出し?」
「ミカンの汁とかで紙に字を書くと、乾けば見えなくなるが、火で炙ると、字が浮かび上がる」
「炙ってみましょうぞ」
「いや、いいや。面倒くさい。それに、炙り出しはBらしくない。おそらく方向違いだ」
「では、この手紙、どうされまするか」
「放置だ。続報が届くまで放っておく。れもんちゃんに会う大事な日の朝をこんなことに使いたくないからな」
「うむ」
「・・・ちょっと待て・・・そうか」
私はコーヒーを淹れようと沸かしていた湯をお碗に少し注ぎ、封筒の頭を浸した。そして、適度にふやけたところで、糊付けされているベロをゆっくりと剥がした。シン太郎左衛門は、ワクワクした様子で見守っている。
「ビンゴ・・・シン太郎左衛門、見ろ」
ベロが糊付けされた箇所に小さな数字が5行にも亘ってギッシリと書き込まれていた。
「これが手紙の本文だ。おそらくゲーデル数だ」
「それは何でござるか。100桁以上ある、飛んでもなく大きな数でござる。普通の女の子の可愛さを1としたときの、れもんちゃんの可愛さを表す数字でござるか」
「我々には、そんな風に見えるが、Bは、おそらく、れもんちゃんを知らん。まあいい。解読には相当の時間がいる。まず朝御飯を食べよう。それから考える。いずれにしても、今日は、れもんちゃんに会いに行く大事な日だ。これ以上、Bに関わってはいられない」
「うむ。しかし、こんな変人から脅迫状が届いたとあっては油断できませぬな」
「脅迫状?・・・別に脅迫状とは決まっていない」
「いや、脅迫状の方が楽しい。もし違っておったら、脅迫状に書き換えなされ。書き換えは、父上の得意技でござる」
「そういう言い方をされるのは心外だ」
「脅迫状に怯えきった父上を拙者と新兵衛が励ます場面を描いてくだされ。さらに、Bの襲撃を拙者と新兵衛が力を合わせて撃退いたす。やっと日々の鍛練が活かせて、拙者も嬉しい」
「いや・・・Bは変なヤツだが、暴力を振るうことはない」
「それは伏せておき、Bを血に飢えた鎖鎌の達人と致しましょう」
「そんな出鱈目は許されない。『シン太郎左衛門』は純粋なドキュメンタリーだからな。いずれにせよ、Bの話は、ここで一旦終わりにする」
「うむ。では・・・父上、これまで楽しかった」
「・・・なんだ、それ?」
「『俺も楽しかった』と言ってくだされ。最終回でござる」
「今回は最終回にはしない。いくらなんでも唐突すぎる」
こんな朝だった。
そして、れもんちゃんに会った。
れもんちゃんは、やっぱり桁違いに宇宙一だった。こんなに桁違いに可愛ければ、計算も桁違いに早いかもしれないと思い、「れもんちゃん、100桁の数字の素因数分解、手伝ってくれない?」と頼むと、「いやだ~」と、宇宙一可愛く断られてしまった。
頼み事への断り方まで宇宙一可愛いのだから、もはや誰も太刀打ちできるものではない。
れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一なのである。
ちなみに、なかなか信じてもらえないだろうが、『シン太郎左衛門』は宇宙一純粋なドキュメンタリーなのである。
シン太郎左衛門と謎の手紙 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と『れもんソング』 様
ご利用日時:2024年3月10日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近、剣術の弟子にしたクワガタを新兵衛と名付けて可愛がっている。
やがて別れのときがやって来る。暖かくなれば、新兵衛は丘の上の林に帰る。二度と会うこともないだろう。それまでに一端の武士にしてやらねばと、シン太郎左衛門は頑張っている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。やはり5時に起こされた。
「父上、新兵衛を出してくだされ」
「はい、はい」と私は布団から這い出して、蓋付きの小さな水槽からクワガタを摘まみ上げ、布団の上に置くと、近くに座った。
シン太郎左衛門は、元気よく、「では、新兵衛、稽古を始めるぞ。やあっ!とおっ!」と素振りを始めた。
私は、朦朧と、虚ろな目を天井に向けて、なんとも空虚な時間を過ごした。
「新兵衛、どこへ行く!おおっ!新兵衛、こっちに来るな!父上、新兵衛がハサミを振り振り、拙者に向かって迫って来おった!父上、新兵衛を離してくだされ!」
「はい、はい」と、新兵衛を摘まんで、離して置くと、私はまた虚ろな目を天井に向けた。
「やあっ!とおっ!まだまだ!やあっ!とおっ!」
こんなことが約1時間続き、
「よし。今日の稽古は、これまで。新兵衛、随分と腕を上げたな」
(嘘を吐け)と思ったが、余計なことを言う気力もなかった。夢現のまま、新兵衛を摘まんで、おウチに返してやった。このところ、ずっと睡眠が足りていない。
台所で、新兵衛の朝御飯(砂糖水)を拵えながら、
「おかしなもので、最近俺の砂糖水作りの腕が上がってきた気がする。こんなものにも上手下手があるのだ」
「うむ。砂糖水作りの道を極められよ」
「嫌だね」
砂糖水を無心に吸っている新兵衛は、なんとも微笑ましかった。お腹が一杯になると、朽ち木の下に姿を消した。
「新兵衛のヤツ、『ご馳走さま』も言わずに、寝に行った。まあ、クワガタだから、しょうがないな。シン太郎左衛門、はっきり言って、新兵衛には武士になる気なんてないぞ」
「うむ。なんであれ、逞しく生きてくれれば、本望でござる」
時計を見ると、7時前だった。もう一眠りしようと布団に入ったが、寝足りてないのは歴然としているのに、目が冴えていた。シン太郎左衛門に話し掛けた。
「おい、シン太郎左衛門。毎朝毎朝5時に起こしやがって、体調が日に日におかしくなってる気がする。後2、3時間は寝ておきたいから、何か面白い話をしろ。お前が面白いと思う話は、俺には退屈だから、きっと眠気がやって来る」
「うむ。では、昔話を致しましょう・・・昔々、あるところに、お爺さんとお婆さんが沢山いる老人ホームがありました」
「ほう、お伽噺としては中々斬新だ」
「お爺さんの中には、すっかり枯れてしまった人もいれば、まだまだ元気な人も、また異様に元気な人もおりました。お婆さんたちも、やっぱりそうでした」
「お前、何の話をしてるんだ?」
「老人ホームの話でござる」
「それは分かってる。『老人ホーム』というテーマには全く興味がないが、凄く嫌な展開になりそうな予感がして、完全に眠気が失せた」
「よくぞ見抜かれましたな。これは老人たちの、出口のないドロドロの愛憎劇でござる。続けて宜しいか?」
「宜しくない!そんなもの聞きながら、気持ちよく寝れるか!安易な気持ちでお前に話をさせたのは失敗だった」
「うむ」
眠いのに、完全に目が冴えてしまった。潔く起きて、新聞を取りに行き、コーヒーの湯を沸かし、パンを焼き、目玉焼きを作った。
「これぞ日曜の朝だ」
と、機嫌よく、出来上がった朝食を目の前にしたとき、全く食欲の湧かない自分に直面した。コーヒーに軽く口を付けた後は、ダイニングの椅子に凭れかかり、口をポカ~ンと開けて、天井を見上げながら、ぼんやり過ごした。
2、30分も経っただろうか、シン太郎左衛門が言った。
「父上、れもんちゃんに会う日の朝にピッタリの曲を流してくだされ」
「『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』は先週嫌になるほど聴いた」
「拙者も他の歌が良い」
「じゃあ、お前が『れもんちゃん音頭』を歌え」
「拙者、寝不足ゆえに、歌など歌う気にならん」
(ふざけたヤツだ)と思ったが、言葉を発する気も起きず、引き続き天井を眺めていると、突然閃きがあった。
「そうだ。取って置きの曲があった。その名もずばり『レモンソング』だ」
「うむ。それがよい。かけてくだされ」
「レッド・ツェッペリンだ」
「うむ」
「眠いときに聴きたい音楽ではない」
「構わぬ。『れもんソング』、流してくだされ」
スマホの動画アプリを立ち上げて、検索をかけると、れもんちゃん人気にあやかってか、何件でもヒットした。
「よし、じゃあ、いくぞ」
「うむ」
曲が始まると、シン太郎左衛門が「ムムッ!」と唸った。
「これは実にハードでござる」
「だろ?」
「実にヘビーでござる」
「だろ?」
「まさに『れもんソング』の名に恥じぬ名曲。魂を揺さぶるまでに、ブルージーでござる。歌も良い。早速覚えて、今日の帰りの電車で歌いまする」
「好きにしたらいい。ただ今度は、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリンのボーカル)の生まれ変わりとは言わせんぞ。まだ生きてるからな」
「知ってござる。でも、ボンゾは死んだ。ジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリンのドラマー。「ボンゾ」は彼の愛称)は、キース・ムーンと並んで拙者が若かりし頃、最も愛したミュージシャンでござる」
「・・・そうだったんだ。お前が、ツェッペリンのファンだったことも、ドラマー志望だったことも初めて知った」
曲が終わると、シン太郎左衛門は、うっすらと涙を浮かべ、
ボンゾは~
拙者の~
青春~
そのもの~
と歌った。
「・・・『卒業写真』の替え歌だ」
「いかにも」
「ユーミンだ」
「ハイ・ファイ・セットの方でござる」
「・・・今の歌で、どうやって区別するんだ!俺も、山本潤子の声が好きだが・・・今回のクチコミは、ひどいな。唯一の読者、れもんちゃんの年齢を考えろ。注釈も中途半端だし、これじぁ、ちんぷんかんぷんだぞ」
「大体、毎回こんなもんでござる」
「・・・まあ、そうだな。それも今日を限りだ。今回でシン太郎左衛門シリーズは終わる」
「うむ。冒頭から、そうと察してござった」
「そうか。見透かされていたか・・・まあいい。シン太郎左衛門、これまで楽しかったぞ」
「うむ。拙者も楽しかった」
「今日も、れもんちゃんに会いに行く」
「楽しみでござる」
こんな朝だった。
そして、れもんちゃんに会った。「宇宙一可愛い」れもんちゃんは、「宇宙一」の笑顔を振り撒いて、「宇宙一」燦然と輝いていた。
それだけで十分だった。
シン太郎左衛門と『れもんソング』 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と弟子の新兵衛 様
ご利用日時:2024年3月3日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。正確に言うと、引き続き原点回帰中の武士である。今日も5時に起きて、「やあっ!とおっ!」と気合いに溢れた剣術の稽古をしていた。
そのうち、シン太郎左衛門、「こら、新兵衛、お主、気合いが足らぬぞ!」と怒鳴った。「おい、新兵衛、どこへ行く。戻って参れ!」とも言っていた。(シンベエとは、何者なのだろうか?)と、少しは気になったが、布団の中を覗く気にはならなかった。
今日は日曜日。れもんちゃんに会う日。
多少睡眠不足だったが、概ね清々しい朝だった。新聞を取って、ダイニングに戻ると、シン太郎左衛門に話し掛けた。
「今朝は新兵衛が来てたな」
「うむ。新兵衛が来てござった」
「新兵衛はお前の弟子か?」
「新兵衛は拙者の弟子でござる」
「オチンの幽霊か?」
「オチンの幽霊ではござらぬ」
「そうか」
これ以上訊いても時間の無駄に思えたので、話題を変えた。
「シン太郎左衛門、今朝、郵便受けに封書が入っていた」
「売り込みか請求書でござろう」
「それが違う。普通の手紙だ。本当を言えば、この手紙、先々週には郵便受けにあるのを目にしていた。でも、なんとなく誰が差出人だか想像できたから、『消えてなくなんないかなぁ』と期待しながら放置しておいた。しかし、今朝見ても、まだあった」
「手紙は、新兵衛のようにトコトコ歩いて、どこかに行ったりはせぬものでござる」
話はまた新兵衛に戻ってしまった。
「新兵衛はトコトコ歩くのか?」
「新兵衛はトコトコ歩きまする」
「新兵衛は速く走ることはないのか?」
「新兵衛は足が遅い。トコトコ歩いて、ピタッと止まり、しばらくすると、またトコトコ歩く」
「新兵衛はちゃんと稽古をするのか?」
「新兵衛は一向に稽古をせぬ。怠けてばかりでござる」
「そうか」
しばしの沈黙の後、シン太郎左衛門が、「して、その手紙は誰から来たものでごさるか」と訊いてきた。
「あの手紙は、おそらく・・・いや、この話はやっぱり止めておこう。今は、そんな気分にならない」
私は、一人の知人の顔を意識の外に追い出した。
「うむ。では、新兵衛に話を戻すと致そう」
「うん。結局、新兵衛とは何者だ?」
「布団を捲ってご覧なされ。まだいるはずでござる」
「・・・なんか嫌だな。何が出てくるか教えろ」
「その生き物の名前を忘れた。最近、ボケが進んでござる。小さくて、黒くて・・・」
「ゴキヤンか?」
「ゴキヤンとは、何でござるか」
「ゴキヤンとは・・・」と言いかけたが、面倒臭くなって、布団を捲ってみた。敷き布団の隅っこに雄のコクワガタがじっとしていた。
シン太郎左衛門が「・・・あっ、そうそう、コオロギでござる」
「コオロギ?クワガタだけじゃなく、コオロギまでいるのか?」
「なんと。コオロギだけでなく、クワガタまでおりまするか?」
「・・・シン太郎左衛門、ちょっとズボンから出てこい」
シン太郎左衛門がジャージのズボンを引き下げて、ニュッと顔を出すと、私は布団の上の虫を指差して、「こいつ、お前の知り合いじゃないか?」
「うむ。まさしく新兵衛でござる」
「じゃあ、新兵衛はコオロギではなく、クワガタだ」
「新兵衛め。拙者をたばかりおったな」
「違う。新兵衛はお前をたばかってはいない。お前が勘違いをしただけだ」
「うむ」
「まあいい。可哀想に、何かの拍子で冬眠から目覚めてしまったのだろう。7時に起きればいいのに、5時起きを強いられる俺と境遇が似ている」
「哀れなヤツでござる」
「それなら、お前は6時に起きろ!」と声を荒げると、シン太郎左衛門は何故か急に晴れやかな表情になり、
「クイーンの『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』は良い歌でこざるなぁ」と、しみじみと呟いた。
「・・・そんな曲、どこで聞いた?ウチでは流してないぞ」
「昨日、チェーンの牛丼屋で流れてござった」
「昨日の昼御飯のときか・・・それが5時起きと何の関係がある!」
「何の関係もござらぬ。それを言うなら、れもんちゃんのクチコミと称しながら、この話のどこが、れもんちゃんと関係致しまするか。れもんちゃんに会う朝にピッタリの曲でござるゆえ、流してくだされ」
「お前は浅はかなヤツだな。この話は、れもんちゃんと無縁に見えながら、こんな他愛ない会話を交わしている親子の姿を通して、れもんちゃんに会う日の朝は、どんな下らないことをしていても、優しい気持ちで過ごせることを描いているのだ。間接的に、れもんちゃんの偉大さを表現する新企画だ」
「全然伝わらぬ。新しいとも思わぬ」
「そうか・・・じゃあ、失敗作だ」
スマホで動画サイトから『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』をループ再生しながら、朝のコーヒーを楽しんだ後、ジャージの上からコートを羽織って出掛けた。丘の上の公園に隣接する林で朽ち木の枝や落ち葉を拾って帰ると、押入れから蓋付きの小さな水槽を出し、砕いた朽ち木や落ち葉を配して、新兵衛を入れてやった。
「しばらく、ここで過ごせ。暖かくなったら、自然に返してやるからな」
台所で、お弁当用の小さなカップに脱脂綿を入れて、砂糖水を染み込ませた。
「父上、何をしてござる」
「新兵衛のご飯を用意している。春になっていないのに起こされた挙げ句、望みもしない剣道の練習をさせられて、気の毒なヤツだ。元気が出るように、今日は特別に蜂蜜も加えてやろう」
「拙者も少し味見してよろしいか」
「ダメだ。これは、お客様用のご馳走だ」
そして、今日も、れもんちゃんに会った。もう言わなくてもいいことかもしれないが、れもんちゃんは当然宇宙一で、宇宙一可愛くて、『可愛かった』。
「今回のクチコミは、ゆる~く書くことをテーマにしてみたけど、どうやら失敗作らしい」と言うと、れもんちゃんは「失敗作でもいいよ」と優しく笑っていた。
この笑顔もまた宇宙一だった。
考えてみれば、雑草たる『シン太郎左衛門』に成功作も失敗作もなかった。
帰りの電車の中で、シン太郎左衛門は、上機嫌で『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』を民謡調に歌っていた。とてつもなく様になっていた。
「シン太郎左衛門・・・お前、どうしてそんなに英語が上手で、歌も上手いのだ?」
「拙者、フレディ・マーキュリーの生まれ変わりでござる」
「ふざけたことを言うな!」
「うむ・・・ところで、父上、郵便受けの手紙は、結局、誰からのものでござるか」
「あれは、おそらくBからのものだ。BはA同様、学生時代からの知り合いだが・・・コイツの話はしないことに決めているんだ」
「恐ろしい秘密が隠されてござるか」
「秘密などないが、説明に余りにも多くの時間を要するのだ。コイツに比べれば、まだAの方が理解しやすい。Bは超人的な頭脳の持ち主だが、俺が知る正真正銘の変人の一人だ。風貌も行動も異様すぎて、周りのみんなが怖がっていた」
「うむ。そんな人物からの手紙を放置しても大丈夫でござるか」
「問題ない。俺は昔からずっとBに怨まれているし、ヤツの俺に対する怨みは今更どうこう出来る性質のものではない。それにBの手紙なら、開けても、すぐ読めるものではない。前に受け取った手紙は解読に一年半かかった。まあいい。俺たちには、れもんちゃんがいる。Bなんて、どうでもいい」
家の最寄り駅で降りると、爽やかな夜風が吹いていた。ただ、たとえ今、突然の大雨が降り出しても、私は濡れながら平然と歩き出すのだ。
れもんちゃんがこの世にいれば、他のことは単なるオマケでしかなかった。
シン太郎左衛門と弟子の新兵衛 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と金ちゃんの就職 様
ご利用日時:2024年2月25日
わが馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。正確に言うと、引き続き原点回帰中の武士である。今朝も5時に起きて、「やあ!」「とお!」と掛け声勇ましく剣術の稽古を始めた。普段7時に起きれば仕事に間に合うのに、連日の5時起きは正直ツラい。
一昨日、金曜日の朝、やはり5時にシン太郎左衛門のけたたましい掛け声で起こされた。
「シン太郎左衛門、稽古は1時間と決めてるなら、6時起きにしてくれないかなぁ。無駄に1時間早起きだ」
「うむ。考えておく」
「考えなくていい!6時に起きろ!」
シン太郎左衛門の稽古が終わると、新聞を取りに表に出た。辺りはまだ暗く、霧雨が降っていた。門扉の向こうに人影が見えたと思ったら、ラッピーとモンちゃんを連れた金ちゃんだった。傘もささず、手には竹刀を持っていた。
「おお、金ちゃん。もしかして、朝練か?」
「はい。丘の上の公園で竹刀を振ってきました。あれから毎朝やってます」
「ご苦労なことだ。もしかして、5時起きか?」
「はい。5時起きです」
「やっぱりそうだ。馬鹿は決まって5時に起きる。金ちゃん、寒くないのか?」
「暑いぐらいです。稽古をしたから、全身がポカポカしてます」
「そうか。俺は寒い。でも、股間はポカポカしている。朝練をしたからな」
「・・・相変わらず発言が意味不明だなぁ」
街灯の灯りの中で、モンちゃんは心なしかスリムになったように見えた。ラッピーは澄んだ綺麗な瞳で、こちらを見詰めてくれていた。
「モンちゃんのダイエットが順調に進んでいるようで安心した。ラッピーについては何の心配もない。元々スリムなナイスボディだし、なんて美しい目をしているんだ。宇宙で二番目に綺麗な目をしている。流石は、『チームれもん』のメンバーだけのことはある」
「・・・『チームれもん』?ああ、例の『宇宙一のれもんちゃん』の仲間のことですね」
「そうだ。金ちゃん、お前、学習してるじゃないか。この調子で、れもんちゃんに関する学びを深めていけば、明るい未来が待ってるぞ」
金ちゃんは、何とも言えない表情を浮かべた後、「あっ、そうだ。僕、4月から就職することになりました」
「なんだと?!どういうことだ?ちゃんと説明しろ」
「大したことじゃないです。今仕事をもらっている会社から社員にならないかって誘われて、条件もいいし、お世話になることにしました」
「正社員か?」
「正社員です」
「止めとけ、止めとけ。サラリーマンなんてくだらない。今のお前の生き方の方がずっといい。俺は30年以上もサラリーマンをやってきたが、人生を豊かにする要素なんて一つもなかった。そんなものになるぐらいなら、武士になれ」
「武士ですか?」
「そうだ。武士になれ。武士はいいぞ。思い付いたときに木刀を振って、偉そうな顔をして語尾に『ござる』を付けて下らないことを喋ってるだけだ。これ以上ない楽な仕事だ。そのくせ、いい思いができる。週に1回、れもんちゃんに会える。極楽だ」
「でも、どうやったら、武士になれるんですか?」
「生まれ変わるしかない。一度死ぬんだな」
「・・・そんなの嫌だなぁ」
「何を言ってるんだ!チャンスに賭けろ。人生は一度しかないんだぞ」
「でも、死んだら、その一度を使い切っちゃうじゃないですか」
「・・・ホントだ。じゃあ、武士は諦めろ。これまでどおりニートでいろ」
「でも、僕はニートじゃないですよ」
「見た目がニートだ。小学生でも恥ずかしくて着れないような、アニメキャラのTシャツを堂々と着ているお前は輝いている。それに引き換え、スーツ姿のお前なんて見られたもんじゃない」
「その点は大丈夫です。服装に自由な会社だから、スーツなんて着てる人はいませんよ」
「ふざけたことを言うな。サラリーマンならスーツを着ろ」
「言ってることが滅茶苦茶だ」
「うるさい。お前が隣の家でゴロゴロ過ごしていることを、俺がどれだけ頼もしく思ってきたか。俺に何かあったらお前に世話してもらおうと思ってたんだぞ」
「ええぇ?そんな恐ろしいことを企んでたんですか?」
「誤解するな。大したことじゃない。別にお前に車椅子を押してもらったり、オムツを替えてもらおうなんて料簡はない。俺は若いことに無茶をしてるから、後2、3年でコロッと死んでしまう。死んだら、すぐにお前にLINEを送る。『今死んだ』というメッセージを受け取ったら、俺の家の二階に上がって、書斎のパソコンを立ち上げろ」
「でも、オジさんの家の鍵は?」
「なんだ、まだ気が付いてなかったのか?お前の家の庭にレモンの木があるだろ。その根っ子のところを掘れ」
「そんなところに合鍵を隠してたんですか?」
「うん。それはともかく、俺のパソコンのログインIDは『シン太郎左衛門』で、パスワードは『れもんちゃん好き好き』だ。ログインしたら、ブラウザを立ち上げろ。ホーム設定は、クラブロイヤルの『お客様の声(投稿)』になってるから、投稿者氏名は『シン太郎左衛門と俳句2』としろ。訪問日も忘れるなよ。女の子は当然れもんちゃんだ。文面はまず『(番組内容を大幅に変更してお送りしております)』として改行、その後に机の2段目の引き出しにある『シン太郎左衛門 辞世の俳句集(傑作選)』と書かれたノートから約500の俳句を一字一句間違えずに打ち込んでから送信しろ」
「拙者からも、よろしく頼む」とシン太郎左衛門が付け加えたが、金ちゃんには聞こえなかっただろう。
「ここまでは覚えられたか?」と訊くと、金ちゃんは狼狽えた様子で、
「理解も出来ないものを覚えられませんよ。ところで、その『シン太郎左衛門』ってオジさんのハンドルネームなんですか?」
「なんだと?こんな馬鹿と一緒にするな!」
シン太郎左衛門も、いきり立ち、「それはこっちのセリフでござる」と言い返したが、この言葉は金ちゃんには聞こえなかったはずだ。
「金ちゃんが余計な口を挟むから、親子喧嘩になるところだったぞ。まあいい。投稿が済んだら、家の全室を回って、俺とシン太郎左衛門の死体を探し出せ」
「なんで死体が2つもあるんですか?」
「それは大したことじゃない。取り敢えず、俺の死体を見つけてくれたらいい。ただ、俺のズボンのチャックが内側から開いていたら、念のために周りに変なモノが落ちてないか捜してくれ・・・あっ、ごめん。チャックが内側から開いたか、外側から開けたかを区別する方法がないな。『俺のズボンのチャックが開いていたら』に訂正する」
「オジさんって、やっぱり普通じゃないです」
「そんなことを言うのは、お前がまだ本物の変人を知らない証拠だ。俺の学生時代の知り合い、A、B、CやK先輩の誰か一人にでも会ったら、一瞬にして認識が改まる。俺が飛んでもない常識人に見えてくる。会うか?」
「・・・遠慮しておきます」
「それが正しい選択だ。じゃあ、そんな常識人の遺言を続けるぞ。俺たちの死体を見つけたら、おぶれ。そして、丘の上の公園に持っていって焼くんだ」
「でも、そんなことをしたら、法律違反です」
「大丈夫。当人がそうしてくれと言っているんだから問題ない。それに、丘の上の公園は、いつ行っても無人だ。誰にも気付かれない。もし、誰かに見咎められたら、『狼煙を上げて、知り合いのインディアンに就職祝いのパーティの招待状を送ってる』と言えば、それ以上、何も訊いてこない」
「・・・分かりました」
「俺とシン太郎左衛門がすっかり灰になったのを確認したら、コンビニのレジ袋に入れて持ち帰れ。新しくてキレイなレジ袋だぞ。お前が鼻をかんだティッシュとかを一緒に入れるなよ。ラッピーやモンちゃんのウンコと一緒にしたら、呪い殺すからな。持ち帰ったら、涼しくて快適な場所に保存しろ。そして、その後、クラブロイヤルに電話して、今後、れもんちゃんが在籍する限り、お盆時期の日曜日に、『シン太郎左衛門ズ』が、どこからともなく現れるから、予約(110分コース)を入れてくれるように頼んで、取り敢えず10年分のお金を前金で払いに行け。そして、れもんちゃんには、俺が『呆気なく死んじゃったけど、お盆になったら絶対に会いに行くから、お経を唱えて撃退しないでね』と言っていたと伝えてくれ」
シン太郎左衛門が「拙者からもお頼み申す」と言ったが、金ちゃんの耳には届かなかったものと思う。
「ここまでは覚えたな?」
「一つとして、頭に残ってません」
「なんだと?いやぁ、寒くてたまらん。いよいよ風邪を引きそうだ。ここから一気呵成に俺の遺言の続きを捲くし立てるから、一言一句正確に記憶しろ」
「だから、無理です」
「さて、俺とシン太郎左衛門の灰の処分だが、俺は重度の閉所恐怖症だから、お墓に納めるなんて論外だぞ。一瞬にして髪が全て真っ白になって、気が狂ってしまう。日本全国の名所旧跡に散骨しろ。300か所以上に分散させろよ。俺は、どんな美しい景色でも5分で飽きるからな。移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ。以上、覚えたか?」
「一つも覚えてません。後で纏めてLINEを送ってください」
「無茶を言うな!今言ったことは、『移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ』の部分を除いて、最初から最後まで完全な思い付きだぞ。言った尻から忘れたわ。それに、お前は、もう4月から家にいなくなる。転勤する可能性さえある。そんなヤツ、頼りにならない」
「でも、仕事はこれまでどおりテレワークだから、4月以降もずっと家にいるんですけど・・・」
「なんだ、それ?変な会社。ああ、寒い。もう凍死寸前だ。俺はそろそろ出勤の準備をするからな。アディオス・アミーゴ」と踵を返したとき、金ちゃんが、
「今日は祝日なのに、オジさん、出勤なんですか?」
私は振り向いて、「えっ?ああ、忘れてた。まあいい。お前は、お前が良いように生きろ。俺のことなど心配するな。一応、『就職おめでと』」
リビングに戻ると、テーブルの上に新聞を放り投げ、
「シン太郎左衛門、聞いたか?金ちゃん、就職するってよ」
「うむ。で、一体何が変わりまするか」
「何も変わりはしないさ」
・・・と、今日れもんちゃんに会った後の帰りの電車の中で、こんな風にクチコミを作成した最中に、下書きに使っているメールソフトが突然ハングした。立ち上げ直すと、全文消えて無くなっていた。
「シン太郎左衛門、大変だ。クチコミの原稿が飛んだ」
「どこに?」
「無くなったという意味だ」
れもんちゃんの余韻に浸るのを邪魔されたシン太郎左衛門は「大したことではござらぬ」と冷淡に言い放った。
「30分以上掛けて書いたんだぞ」と言ったものの後の祭りだった。
「まあいい。考えてみれば、『移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ』の箇所を除けば、思い付きを書いただけだから、消えても惜しくない」
「うむ。れもんちゃんが宇宙一可愛いから、他のことはどうでもいいのでござる」
そう。確かに今日も、れもんちゃんは宇宙一で、宇宙一可愛くて、『可愛かった』。他は、消えてなくなったところで、別にどうでもいいことばかりだった。
シン太郎左衛門と金ちゃんの就職 様ありがとうございました。
りこ 【VIP】(24)
投稿者:ミヤモト様
ご利用日時:2024年2月23日
人生初めてのリピートしました。可愛いくてスタイルよく趣味も合って充実した時間を過ごせました。次もりこちゃんの唇に癒されにいきます。
ミヤモト様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とダンボールのラケット 様
ご利用日時:2024年2月19日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。将来の夢は、中学校の卓球部に入ることだと言っている(前回のクチコミの最終節を参照)。この1週間は毎朝早起きして、前の日曜日に私がダンボールを切り抜いて作ってやった卓球のラケットを振っている。まるで武士らしくなくなってしまった。
(今回は、日曜日が、れもんちゃんの女の子休暇に重なってしまい、休み明けの月曜日に会った。)昨日、日曜日の朝、シン太郎左衛門は早起きして、ダンボール製のラケットを「やあっ!とおっ!」とか言いながら一生懸命に振っていた。
「今日も頑張ってるな」
「うむ」
「楽しいか?」
「それが何とも楽しくない」
「そうか」
「この1週間ずっと疑問に感じてござった。中学生のれもんちゃんは、本当に毎日こんなことをしていたのでござるか」
「・・・この1週間、いつ言おうとか悩んできた。俺の説明が悪かったのかもしれないが、今お前がやっていることは、卓球とは言いがたい。卓球のラケットは中段に構えたりしない」
「父上は『卓球は、木刀でなく、ラケットを振るのだ』と仰せでござった」
「そんな説明をしたような気がする。言葉足らずだった」
私には、ダンボールをハサミで切り抜いて、シン太郎左衛門の身の丈に合ったミニチュアのラケットを作るなどという器用な芸当はできなかった。シン太郎左衛門は、ほぼ実寸大の卓球のラケットを私の腹に突き立てて、仁王立ちしていた。心なしか怒っているように見えた。
「行き違いがあったようでござる。卓球とは、竹刀の代わりに、この大きなシャモジのようなものを使う剣道のこと・・・」
「・・・ではない。『剣道』-『竹刀』+『大きなシャモジ』=『卓球』という式は成り立たない」
「やはり、そうでござったか。拙者も『多分これは違うな』と、うすうす感じておった」
「俺も、お前が、いつ気付くか様子を見守っていた」
「大きなシャモジで、ずいぶん風を起こした」
「済まなかった。ちゃんと説明し直す。卓球の別名はピンポンだ。お前のラケットは紙で出来てるが、本物のラケットは木製で、ラバーが貼ってある。そのラケットでテンポよく交互に玉を打つ、そういうゲームだ」
「木の板でテンポよく左右のタマタマを交互に叩く?」
「違う。そんなことをしたら、痛くて目が回ってしまう。中学生のれもんちゃんが、同級生の男の子を押さえ付けて、股間をラケットでスマッシュする姿を想像できるか?」
「れもんちゃんは、それはそれは気持ちの優しい娘でござる。そんなことをするはずがござらぬ」
「だろ?卓球は、そんな野蛮なスポーツではない・・・卓球の動画を見せよう。いくら口で説明しても、行き違うばかりだ」
シン太郎左衛門は深く息を吐いて、「父上、折り入って、お願いがござる」
「なんだ?」
「お手製のラケットまで拝領した身で心苦しいが、拙者には、卓球を続けるのは無理でござる。目的が分からぬ」
「そうか・・・しかし、お前には卓球を止めることが出来ない」
「なんと!それは何ゆえ?」
「始めてもいないものを途中で止めることは論理的に不可能だからな。ただ、事情が事情だから、今回に限り特別に許す。止めてよし」
「忝ない。ただ、れもんちゃんに、根性なし、意気地なし、と思われますまいか」
「大丈夫。れもんちゃんは、そんな娘ではない。この件、クチコミにも書かないから、心配するな」
「一生恩に着まする」
そして、今日は月曜日。れもんちゃんに会う日。有給休暇をとっていたし、昼まで惰眠を貪る予定だったが、朝の5時、シン太郎左衛門が「やぁ!とぉ!」と、剣術の稽古を始めた。またしても原点回帰だった。
昼御飯をゆっくり食べて、神戸に向けて出発した。
そして、れもんちゃんに会った。シン太郎左衛門が最近素振りに余念がないことを伝えると、れもんちゃんはニッコリと微笑んだ。
言うまでもなく、れもんちゃんは宇宙一で、宇宙一楽しくて、宇宙一可愛かったから、110分間、私は宇宙一の幸せ者だった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門は、れもんちゃんの余韻に酔いしれて、うっとりとしている。私はこのクチコミを書いている。
「父上、またクチコミでござるか」
「そうだ」
「毎度毎度、ご苦労なことでござる」
「苦労なんてしてない。俺みたいな天性の怠け者が、自分の意志や考えで、毎週こんな長い文章を書いていると思うか?」
「確かに、父上はどうしようもない怠け者で、何をやらせても三日と続かないろくでなしでござる」
「だろ?だから、『シン太郎左衛門』のクチコミにしても『私が書きました』なんて、間違っても言えない。思い上がりもいいところだ。勝手に出来るんだ。俺の意志ではない。れもんちゃんがいるからだ」
「なるほど」
「れもんちゃんが慈雨の如く降り注ぎ、太陽の如く光り輝き続ける限り、『シン太郎左衛門』は何の意味も目的もなく雑草のように生えてくる。これは、宇宙の摂理だ。れもんちゃんが宇宙一だから、こういうことが起こる。それだけのことだ」
「うむ。れもんちゃんは実に有難いお方でござる」
その後、シン太郎左衛門は電車の中で、「れもんちゃんは偉いものでごさるなぁ」と頻りに感心していたが、家の最寄り駅で電車を降りるとき、「拙者は雑草かぁ・・・」と少し肩を落として呟いた。
雨が降っていたが、暖かい雨だった。
シン太郎左衛門とダンボールのラケット 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と海外ドラマ2 様
ご利用日時:2024年2月11日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。原点回帰したとか言うが、剣術の朝練は、やったりやらなかったり。サボった日は「今朝は原点回帰し損なってござる。それもこれも、憎っくき目覚ましのせいでござる」とか姑息な言い訳をする。
昨日、土曜日。仕事に行って、帰宅したのは夜の8時過ぎだった。久し振りに海外ドラマを見ようと考えた。
「今夜は、海外ドラマを見ることに決めた」と告げると、シン太郎左衛門は、
「さては、それをクチコミのネタにする腹積もりでござるな。ただ、『海外ドラマ』は、昨年の6月4日、『シン太郎左衛門シリーズ』の第4回で既に取り上げてござる。十分気を付けて書かれるがよい。父上はいい加減な人間ゆえ、設定に無頓着でござる。心して書かぬと、読み比べられたとき、辻褄が合わんことになりまする」
「無用の心配だ。誰が読み比べたりするのもんか。シン太郎左衛門シリーズに、そんな熱心な読者は一人もいない。俺自身、過去に書いたものを読み返したことがない」
「うむ。間違いない。れもんちゃんさえ、まともには読んでござらぬ」
「・・・それは少しショックだな」
「それが現実でござる」
「まあいい。とにかく、これから海外ドラマを見る」
「うむ。当然れもんちゃんが主演の方でござるな」
シン太郎左衛門は、れもんちゃんの写メ日記の動画も、海外ドラマだと思い込んでいる(シン太郎左衛門シリーズ第4回を参照のこと)。
「違う。れもんちゃんに薦めてもらったアメリカのドラマの方だ。癌の宣告を受けた高校教師が家族のために犯罪に手を染めてしまう話だ。れもんちゃんは出てこない」
「以前も申した通り、斯様なものに武士たる拙者を巻き込むとは言語道断。ましてや、れもんちゃん主演の海外ドラマを見せぬなら、父上とは絶交でござる」
「見せないとは言ってない。そうだ。こうしよう。まず、俺一人で、れもんちゃんが出ない方を1話見て、その後、れもんちゃんが出る方を一緒に見る。それで、どうだ」
「いかん。モノには順序がござる。大切なものが先でござる」
「いや、れもんちゃんの動画を先にしたら、海外ドラマに行き着けなくなる。前にも言ったが、このアメリカのドラマは、れもんちゃんが『面白いよ。見てみて』と薦めてくれたのだ。いつまでも見ないでは済まされん」
「・・・得心いかぬが、れもんちゃんのご意向には逆らえぬ。致し方ない。『ブレイキング・バッド』、さっさと見なされ。倍速で」
本来、シン太郎左衛門は、ドラマのタイトルを知っていてはいけないし、倍速などという機能があることも知らないはずである。何故知っているかは分からないが、ここは触れてはいけない部分なのである。
二階の書斎に上がり、パソコンの電源を入れた。
「見終わってござるか?」
「見始めてもいない」
「遅い!」
「今、部屋に入ったばかりだ」
アメリカのドラマの方は、シーズン3の途中で止まっていたから、その続きだ。れもんちゃんの推薦だけあって大変面白いのだが、中年男が追い詰められていく姿が身につまされて、中々先に進められずに、今日に至ったのだった。見るとなれば、真剣に見たいのに、見始めるなり、シン太郎左衛門から「まだか」「まだ終わらぬか」と矢の催促を受けた。
「落ち着かん。少し静かにしておいてくれ」と黙らせた。
しかし、1分とおかず、「早くれもんちゃんの海外ドラマが見たいなぁ・・・父上、英語で聞いてもチンプンカンプンでござろう。意地を張らず、吹き替えで御覧なされ」と嫌がらせを仕掛けてきた。
「頼むから静かにしてくれ。今いいところなんだ」
シン太郎左衛門は、しかし、2分と黙ってはいなかった。しばらくすると、「れもん・・・れもん・・・」と、『れもんちゃんコール』を始めた。最初は小声で、段々と声量を上げていった。無視しようと頑張ってみたものの、『れもんちゃんコール』を聞かされているうちに、タイガースのユニフォームを着て、甲子園球場のバッターボックスに立つ、れもんちゃんのイメージが脳裡に湧き上がってきて、ちっともドラマに集中できなくなった。
「れもん!・・・れもん!・・・」の熱気を帯びた『れもんちゃんコール』に続いて、「パッパラ~、パラララ~」と、勇ましいトランペットの演奏が始まった瞬間に、観念して動画を止めた。
「かっ飛ばせ~、れもん!ここで一発、れもん!・・・ピッチャー、振りかぶって・・・投げました。カキ~ン!オ~ッ!・・・『れもんちゃんに、握られ、バットは、夢心地』松尾シン太郎左衛門」
「ここで俳句かよ。おまけに下ネタだ」
「父上、プロ野球はお好きか?」
「いいや。全然見ない」
「うむ。アメリカのドラマは終りましたか」
「終わらされた」
「では、れもんちゃん主演の海外ドラマを見ましょうぞ」
私が、れもんちゃんのウェブページにアクセスしている間に、シン太郎左衛門はモニターの前の一等席に陣取った。いつの間に準備したのか、レモンイエローのハッピを着て、同色のメガホンまで持っていた。
8カ月の間に溜まった、れもんちゃんの動画を堪能し、シン太郎左衛門はご満悦だった。時刻は深夜1時を回り、私はもうフラフラになっていたが、シン太郎左衛門と私は、れもんちゃんが、この8カ月の間で、日々美しさに磨きをかけてきたという点で完全な意見の一致を見た。ただ、動画のれもんちゃんは表情が硬い。実物のれもんちゃんは、もっともっと生き生きとした表情なのである。
そして、今日、日曜日、れもんちゃんに会いに行った。やはり宇宙一だったし、無敵の宇宙一ロードを光速を超えたスピードで驀進していた。
可愛すぎるれもんちゃんに、「れもんちゃんって、野球する?」と訊いてみた。
「それは秘密だよ。中学生のときは卓球部だったよ」と言って、ニッコリ笑った。
これをシン太郎左衛門が聞き逃したはずがない。帰りの電車の中で、卓球とは何か、しつこく訊いてくるだろう。説明すれば、明日の朝から、シン太郎左衛門が、木刀でなく、ラケットを振ることになるのは分かりきっていた。
原点回帰は完全に終わった。
シン太郎左衛門と海外ドラマ2 様ありがとうございました。
りんか【VIP】(22)
投稿者:アニメ好きのサイトウ様
ご利用日時:2024年2月8日
短い時間だったけど、話しやすくて積極的でとても楽しい時間を過ごすことが出来た。
次に神戸に来ることがあったら、今度はもっと長い時間を一緒に過ごしたいと思った。
アニメ好きのサイトウ様ありがとうございました。
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今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。れもんちゃんに会う日だけは十分睡眠をとりたいので、昨晩の就寝時に明日は8時まで静かにしているように厳に命じていた。
「約束だぞ。5時に目が覚めても、俺の目覚ましが鳴るまでは、静かにしてるんだぞ」
「うむ。天地神明に誓いまする」
そう固く約束していたのに、今朝も、やっぱり夜明け前に叩き起こされた。
「この無礼者め!手討ちに致す!」とか大声で怒鳴っている。布団を捲って、「うるさい!」と一喝すると、シン太郎左衛門、ハッと目を覚ました。
「今、何時でござるか」
手探りでスマホを探し当て、画面を股間に向けてやった。
「見ろ。5時ジャストだ」
「父上は、5時起きの星の下に産まれてござるな」
「そんな星はない。どう考えてもお前のせいだ」
「うむ。拙者、夢を見てござった」
私はモソモソと布団から起き出し、
「そうだろうな。何の脈絡もなく『無礼者』と叫ぶヤツはいない。俺も夢を見ていたはずだが、お前の罵声に叩き起こされて、記憶が飛んでしまった」
と、部屋の電気を点けた。
「拙者、またしても、れもん星の夢を見てござった」
「夢の中で、れもん星に行く話は以前にもあった」
「いかにも。ただ、拙者が今回れもん星に行ったのは遊びではござらぬ。れもん星の観光大臣から依頼を受け、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』で、れもんちゃんを讃えるスピーチをするため、れもん星に行ったのでござる」
私は、新兵衛(クワガタ)を摘まんで、水槽から出すと、布団の上に置いて、あぐらをかいた。
「それは名誉なことだ。大臣から手紙でも来たのか?」
割り箸を渡してやると、シン太郎左衛門は素振りを始めた。
「うむ。親書が届いた。ディズニーの便箋に『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん。イベントするから、れもん星PRのスピーチしてねっ(ハート)』と書いてござった。イベントのチラシが同封されておった」
手の甲で眠い目をゴシゴシ擦りながら、
「もしかして、れもん星の観光大臣は、れもんちゃんか?」
「それは分からぬ。ただ、こういう機会もあろうかと、拙者、前々から、れもんちゃんを讃えるスピーチを用意してござった」
「それは見上げた心掛けだ」
「拙者、手紙を一読、素早くタキシードに着替え、スピーチ原稿を手にすると、次の瞬間には、南港から出発するポンポン船の甲板に立っておった」
「お前、れもん星を舐めてるだろ?何で毎回、船で、れもん星に行くのだ。ちゃんとロケットに乗れ」
シン太郎左衛門は真面目に素振りを続けながら、
「船に乗ったものを、嘘は吐けぬ。『シン太郎左衛門』シリーズは、ドキュメンタリーでござる。出来るものなら、拙者もロケットがよかった。港を出た途端、船が波をかぶり、折角のタキシードはズブ濡れ、原稿もどこかへ行ってしもうた」
「船で行くからだ」
「うむ。そうこうしているうちに、小船は港に入り、早くも、れもん星に到着しておった」
「れもん星って、そんなに近いのか?今の話を聞く限り、れもん星の最寄り駅はユニバーサルシティ駅かもしれない。近畿圏なのは間違いない」
「真面目に考えてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そりゃ、そうだ」
シン太郎左衛門は引き続き割り箸を振り回している。
「今回も、周りに何もない殺風景な港に到着いたしたが、波止場には『歓迎 シン太郎左衛門様 ~よく覚えてないけど長い名前のシンポジウムへようこそ~』と横断幕が掲げられておった」
「れもん星人は、かなりいい加減なヤツらだな」
「うむ。船から降りると、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく出迎えてくれるスタッフさんにそっくりな『れもん星人』が出迎えてくれた。周りには、10人程の小学生のマーチング・バンドが控えておった。彼らも当然『れもん星人』でござる」
「心温まる歓迎風景だ」
「うむ。スタッフさんが、『ようこそお越しくださいました。会場まで約4キロございます』と先導してくれて、歩いて会場に向かった」
「徒歩なの?」と私はあくび混じりに言った。
シン太郎左衛門は益々元気に素振りを続けながら、
「うむ。道々子供たちがリコーダーで『ドナドナ』を吹いてくれた。スタッフさんがバトンを振ってござった」
「リコーダーのみのマーチング・バンドというのは斬新だが、『ドナドナ』とは微妙な選曲だな」
「うむ。悲しいメロディに合わせて、スタッフさんは満面の笑みを浮かべ、陽気にバトンを振っておった。『蛍の光』も演奏してくれた」
「通常、帰宅を促すのに使われる曲だな。『さっさと帰れ』という意味だろう」
「なるほど。とぼとぼ歩いて着いたところが、国を挙げたイベントの会場とは思えぬ場所でござった」
「具体的に言うと?」
「野原にポツンと建った小さな建物。形は駅前の派出所に似ておった」
「イベント会場とは思えん・・・警官が詰めているのを見たことがないし、最近は灯りも点いてない」
「うむ。スタッフさんに促され、派出所にそっくりの建物に入ると、『まあ、座れ』と椅子を勧められ、まるで取り調べが始まりそうな雰囲気になった」
「こんな短い滞在期間で、お前、法に触れることをしたのか?・・・あっ、そうか。お前の姿を小学生の目に晒したのはマズかった。猥褻物陳列罪だ」
「うむ。拙者も、それに気付いて、すっかり観念した。何のために、れもん星まで来たのか、と悲しくなってござる」
「『ドナドナ』の謎が解けた。しっかり逮捕されたか?」
「ところが、結局、取り調べもされなんだ。そこは派出所ではなく、気が付けば、壁際に1台ガシャポンがあった」
「・・・またガシャポンか?ここで、前回れもん星に来た話に合流してしまった。もう後の展開は聞くまでもない」
「うむ。拙者がガシャポンを見詰めているのを察したスタッフさんが『シン太郎左衛門さんの出番までは、まだたっぷり時間がありますから、ガシャポン、どうですか?1回2000円です』と言った」
「前回より値段が上がってる」
シン太郎左衛門は疲れてきたらしく、息を切らして割り箸を重たそうに振っている。
「賞品のグレードが上がっているとのことでござった。拙者が黙っていると、スタッフさんは『豪華なれもんちゃんグッズが当たりますよ。特等は、れもんちゃんの実物大フィギュアだ!!』と叫んでござる」
「それは、気持ちが動くな」
「更に『末等の10等でさえ、これだ!!れもんちゃんトートバッグだ!!』と叫んで、実物を見せてくれた」
「よく叫ぶスタッフさんだ」
「うむ。ただ、その『れもんちゃんトートバッグ』が実に可愛かった!!」
「お前まで叫ばんでいい。当たり前だ。『れもんちゃん』と名前に付いていれば、可愛いに決まってる。丁度、買い物袋が壊れて困っていた。絶対に欲しい」
「拙者も欲しかった」
「特等は無理だ。末等のトートバッグを狙え。当たるまで、お前は、れもん星から帰って来なくていい」
「ところが、そんな甘い話ではござらなんだ」
「だろうな。もし、れもんちゃんグッズが当たっていれば、お前は死んでも、れもん星から持ち帰ってきたはずだ」
「いかにも」
シン太郎左衛門は疲れ果てて、布団の上にペタンと座った。
「で、何が当たった?またモモンガの缶バッジか?」
「今回は缶バッジではござらぬ。れもんちゃんの等身大フィギュアが当たる気は致さなんだが、れもんちゃんトートバッグが当たれば、父上も、さぞやお喜びと思い、スタッフさんに『では、一回やろう。だが、くれぐれも、モモンガの缶バッジではないな?』と確かめた。缶バッジは入っていないとのことでござった。2000円渡して、コインを受け取ったとき、スタッフさんが気になることを言った。『れもん星の素敵な特産品も当たりますよ!!』」
「待て待て、それはマズい。俺たちが欲しいのは、れもんちゃんグッズであって、れもん星の特産品ではない」
「うむ」
「・・・分かった・・・お前が当てたのは、れもん星の特産品だな」
「うむ。ガシャポンを回すと、カプセルが出て来て、中には小さく畳んだ紙が入っておった。開くと『3等』とあった。3等は『れもん星の空気の缶詰め』でござった」
「ラベルに、れもんちゃんの写真が使われていて、メチャクチャ可愛いとか?」
「ラベルなど貼られておらぬ愛想のない缶でござる。マジックで『空気』と手書きされておった」
「要らん要らん。俺は小学生のとき、近所に住む人から『スイスの空気の缶詰め』というものを貰ったことがあるが、開けたら鉄サビの臭いがしただけだった。スイスの印象がかなり悪くなった」
「拙者、元々、缶の類いは好かぬ。スタッフさんに、末等と替えてくれるように頼んだが、断られた。意地になって、追加で2回挑戦したが、残念ながら2回とも1等、『れもん星の空気の缶詰め(特大)』でござった。要は、『空気(特大)』とマジックで書かれた、ただの大きな缶でござる」
「1等のくせに、かさ張るだけで、お土産にしても誰にも喜ばれない」
「嫌われる覚悟がなければ、人には渡せぬ。スタッフさんから、『これ、どうやって持って帰ります?全部まとめて、紐を掛けて、持ち手を付けましょうか?』と訊かれたので、腹の中は煮えくり返っておったが、平静を装い、『いや。そこまでしてもらうのも恐縮。お世話になったお礼に、貴殿に差し上げまする』と言うと、スタッフさん、『こんな変なモノ、要りませ~ん』と大爆笑してござった。それで思わず・・・」
「『無礼者!』と叫んだ訳だな」
「うむ」
「・・・くだらん。なんて下らない話だ。今度こそ、本当に、れもんちゃんに怒られる。『下らないにも程がある』って、真顔で怒られる」
「うむ。では、今回を最終回と致しましょう」
「そんなの、何の意味もない。お前の夢に出てくる『れもん星』には夢も希望もない。こんな話をクチコミに揚げたら、れもんちゃんのイメージを損ないかねない。本当に素晴らしい娘なのに」
「うむ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちにも失礼だ。みんな、いい人ばかりだ」
「うむ・・・ところで、Bの手紙の解読は済んでござるか」
シン太郎左衛門には、旗色が悪くなると、話を逸らす悪い癖があるが、私は話を戻すことさえ面倒くさいと思ってしまう横着者だった。
「まだ手も付けてない」と言うと、新兵衛を摘まんで、おウチに帰してやった。
こんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。言うまでもなく宇宙一だった。
「れもんちゃん、今回のクチコミ、すごく下らないけどいい?」と尋ねると、「うん。いいよ」と、宇宙一可愛い笑顔で答えてくれた。普通、こういう場面では、(だって、毎回下らないし)という心の声が聞こえてくるものだが、れもんちゃんに限っては、そういうことさえない。気立てのよさも宇宙一だった。
ついでに「れもん星って、割りとユニバに近かったりする?」と訊いてみようとしたが、無意味なので止めた。
彼女の故郷がどこにあろうと、れもんちゃんの魅力の総体を収めきるには、地球は余りにも小さすぎた。