福原ソープランド 神戸で人気の風俗店【クラブロイヤル】
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れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、『れもんちゃんの素顔』に迫る様
ご利用日時:2023年10月8日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士であるらしい。当人がそう言っている。もし僧侶だったら、多分こんなに長いシリーズにはならなかっただろう。
今日も、れもんちゃんに会ってきた。今回も、れもんちゃんはやっぱり凄かったので、帰りの電車で早速クチコミを書こうとスマホを取り出すと、シン太郎左衛門が「父上、またクチコミを投稿されるお積もりですな」と言ってきた。
「うん、そうだよ」
「最近、似たような書き振りのものが多い。今回は趣向を変えましょうぞ」
「同じ人間が書けば、似たようなものになる。お前なら、どう書く?」
「ヨーロピアン・テーストがよいと考えまする」
全く意味が分からなかったが、「お前がそうしたいなら、それでいいよ」と答えた。
「更に今回は、お色気を大幅増量で、れもんちゃんの真の姿に迫るというのでは如何でござるか」
「ヨーロピアン・テーストで、お色気満載ね。いいね」
「では、宜しくお頼み申す」
「いや。そうではない。今回は、お前が言うとおりに書いてやる。想いの丈を語ってみろ」
「マジで?」
「だから、そういう言葉遣いはやめろ。品がない」
「うむ・・・拙者が書きまするか」
「そうだ。ヨーロピアン・テーストだ」
「うむ」
「更にお色気増し増しだ」
「うむ」
「俺には、さっぱりイメージ出来ないから、お前に任す」
自らの発言に追い詰められ、しばし沈黙したシン太郎左衛門だったが、「うむ、今更後には引けませぬ。武士の覚悟をお見せ致しましょうぞ。ただ、拙者のれもんちゃんに対する想いは無限に大きい。途轍もなく長くなってもよろしいか」
「お前の思うとおりにしたらいい」
「うむ・・・しかし、ものには限度というものがありまする。野放図に長くては周りに迷惑。短くしてもよろしいか」
「どっちでもいい」
「中ぐらいでも?」
「問題ない」
「中ぐらいより少し長くても?」
「さっさと始めろ」
「うむ。拙者、一度始めますれば、立て板に水でござる。書き漏らしのないよう、お頼み申しまする」
「うむ、安心しろ」
「では、始めまする」
「よし」
「・・・本当に始めてよろしいか」
「さっさとやれ」
「・・・いや、その前に『れもんちゃん音頭』で景気付けを致しましょう」
「いらん。さっさと始めろ」
「うむ。では、始めまする」と、シン太郎左衛門は咳払いをして「拙者、フジヤマ シン太郎左衛門は武士にて候」
「うん」
「これは自己紹介でござる」
「分かってるよ。ちなみに、『フジヤマ』って、どんな漢字?」
「『不二山』でござる。『富士山』でもよろしい」
「分かった。なぜ俺と違う名字なのかは分からんが、まあいい。壮大でよい名前だ」
「いかにも、よい名前でござる。富士は日本一の山でござる」
「知ってる」
「れもんちゃんは宇宙一でござる」
「それも知ってる。次、行こう」
「天保山は日本一低い山でござる」
「早く先に行って」
「うむ。ここから一気にお色気満載で、れもんちゃんに迫りまするが、その前に『れもんちゃん音頭』で景気付けを致しましょう」
「くどい。前置きはもういいから、先に行け」
「では」と、シン太郎左衛門は、5、6回は連続して咳払いをした上で、
「それでは。え~、いわゆる、れもんちゃんのオッパイは・・・」
「ちょっと待て、一つ言い忘れてた。クチコミには、不掲載になることがあるからね。お前が普段俺に話しているような内容だと、投稿を読んだ途端にクラブロイヤルの店長の表情が暗くなり、れもんちゃんと相談の上で然るべき対応を取ることになる」
「つまり?」
「不掲載」
「うっ・・・これだけ苦労して書いたものが不掲載でござるか」
「いや、お前はまだ何もしていない。辛うじて自己紹介を済ませただけだ」
「う~む、オッパイはいけませぬか」
「オッパイがダメだとは言わないが、お前がどう続けるか俺にはおおよそ分かるから一応釘を刺しておいた」
「そんな言い方では何をしてよいかが杳として知れぬ。絶対に不掲載となる例を教えてくだされ」
「たとえば、・・・」と一例を示してやると、シン太郎左衛門は、
「それは、まさしく拙者が言わんとしたこと。そう書けば、不掲載でござるか」
「ああ。間違いない」
「・・・それでは、れもんちゃんのオッパイでなく、れもんちゃんのお尻に代えても・・・」
「オッパイだろうが、お尻だろうが、お前が平素れもんちゃんを語っている言葉は、悉く不掲載だ」
「うっ・・・まさか意中の文章が悉く禁じられるとは思いも寄りませなんだ。拙者、まるで存在を否定されたような悲しい気分でござる。こんなことなら自己紹介もせねばよかった」
「そうしたら、何もなくなってしまう」
「今回は、クチコミをパスするしかありませぬな」
「いや、それは出来ない。『今日もクチコミを書くね』と、れもんちゃんに約束したからな。書けないと言うなら、シン太郎左衛門が馬鹿だから、こんなことになったと、れもんちゃんに説明するしかない」
「なんと!!それは困る!!」
「では書け!!」
「しかし、拙者には、オッパイもお尻も禁じられてござる」
「それがどうした。れもんちゃんは魅力がテンコ盛りだ。他にも書くことはあるだろ」
「まさか、父上・・・」
「何が、まさか、だ」
「・・・父上、まさか、アレを描けと仰せでござるか」
「・・・『アレ』と言って、お前が何を考えているか分からんが、まず俺が思ったのは、あの可愛いお顔について書いたらいいということだ」
「もちろん、拙者の思ったのも同じことでござる。しかし、れもんちゃん程の美人になれば、顔の描写が一番エロくなる。間違いなく不掲載でござる」
「そんな話、聞いたこともない。爽やかに書けばいいだけだ。加えて、れもんちゃんは、小顔で細面にしたフランス人形のような華やかな顔立ちの美人だから、これで、お前が課した『ヨーロピアン・テースト』という無理難題もクリアできる」
「そんなものでござるか」
「そうだ。れもんちゃんはナチュラル・メイクだが、使ってるコスメは、メイド・イン・フランスに違いない。これまた、ヨーロピアン・テーストだ」
「分からぬ言葉がテンコ盛りでござる」
「説明してやる。ナチュラル・メークとは、つまり・・・見たことはないが、れもんちゃんは素顔でも美人だ」
「間違いござらぬ」
「その素材の素晴らしさを活かす、あっさり自然なお化粧がナチュラル・メークだ」
「いや、『ナチュラル・メーク』は存知ておりまする。拙者が分からぬのは、『ヨーロピアン・テースト』の方でござる」
「・・・その言葉を持ち出したのはお前だぞ」
「知らぬものは知らぬ。今日、待合室で隣におられた武士が、先日、伊勢・志摩に旅をした折、ヨーロピアン・テーストの村に立ち寄ったが、大変に趣があった、ヨーロピアン・テーストは良いモノでござると述べておられたばかりのことでござる」
「ちょっと目新しいというだけで、何だか分からぬモノを拾ってきおって、お前はカラスか。それに隣の武士に話し掛けるなと言っておいたはずだ!」
「向こうから話し掛けてきたのでござる!」
しばらく気まずい沈黙が続き、今回はどうにもクチコミが纏められないのではないかと不安になってきた。
「シン太郎左衛門、喧嘩をしている場合ではない。二人で力を合わせて、れもんちゃんのお顔をテーマにクチコミを纏めよう」
シン太郎左衛門は、苦虫を噛み潰したような顔で、「こればかりは、正直自信がござらぬ」
「なぜだ。お尻やオッパイについてはあんなに表現力が豊かなのに、お顔の描写のできぬはずがない」
「それが出来ぬ。父上、考えてもみてくだされ。れもんちゃんと一緒の時間の大半、れもんちゃんのお顔と拙者は物理的に離れているのでござる」
「言われてみれば、そうだな」
「拙者、眼鏡が要るほど視力が落ちておりまする故、なかなか、れもんちゃんのお顔がしっかり見えませぬ。れもんちゃんのお顔が、しっかり見えるほどに拙者にグッと接近するのは、ある限られた場面のみでござる」
「分かった。皆まで言わんでいい」
「お色気増し増しにするなら、ここですぞ」
「いや、もういい」
「うむ。今申した理由で、拙者、れもんちゃんのお顔を思い浮かべると、心拍数がガッと上がってしまい、到底クチコミどころではござらぬ」
「なるほど・・・正当な理由だ」
「うむ、正当な理由でござる」
「今日、我々がクチコミを書けないのは、我々親子が揃って馬鹿だからではない」
「うむ。我々は被害者でござる。れもんちゃんがエロすぎるのが悪い」
「そうだ。れもんちゃんが可愛すぎて、エロすぎるから、こういうことになった。約束が果たせなかった責任は、我々ではなく、れもんちゃんにあるのだ」
「うむ。間違いござらぬ。ところで、父上・・・」
「なんだ?」
「れもんちゃんのお顔をもっとしっかり見たいから、眼鏡、買って」
「眼鏡?お前に眼鏡は似合わん」
「じゃあ、レーシック」
「・・・考えとく」
ということで、結局、今回、シン太郎左衛門は、れもんちゃんの素顔に迫ることはできなかった。
シン太郎左衛門、『れもんちゃんの素顔』に迫る様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは神戸のベンチで総集編)様
ご利用日時:2023年10月1日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。しかし、サムライではないらしい。どういう理屈かは知らない。
どうでもいいことだが、私は普通の勤め人である。平日は満員電車に乗って職場に通っている。先週は、退屈な会議の類いが目白押しで、毎日ゲンナリしていた。
火曜日の午後も延々会議だった。その会議中に、シン太郎左衛門が突然話し掛けてきた。「早くれもんちゃんに会いたいな~。父上、今日は何曜日でござるか」
彼と私の会話が、どんなメカニズムで成立しているのかは分からないが、口を動かす必要もないし、周囲の人間が聞き取れるものではないようだ。微弱な振動が身体の中を伝わったり、親子だけが共有する特別な周波数が使われているのだろう。
普段は「仕事中だ」とすげなくあしらう所だが、ド退屈な会議だし、声を潜めて、
「まだ火曜日だ」と答えた。
「拙者、実は曜日がよく分かりませぬ。火曜日の次は日曜日、つまり、明日が、れもんちゃんに会う日でござるな」
「違う」
「なんと・・・ああ、そうでござった。火曜日の次が月曜日で、その次が日曜日、れもんちゃんに会う日でござる」
「順番が逆だ。お前は今、過去に向かってタイムトラベルしている。れもんちゃんに会うのは、5日後だ」
シン太郎左衛門、眉間に皺を寄せ「マジで?」
「そういう言葉遣いはよせ。品格を疑われる」
「う~、まだ5日もござるか。父上は、よく我慢できまするな」
「いいか。俺の人生は、退屈や愚劣なこととの、終りのない戦いだ。俺の世界から、れもんちゃんを除けば、残りは全て『下らないこと』と『下らなすぎて耐えられないこと』の2つにスッキリ分類できるのだ。我慢には慣れっこだ」
「う~む。父上がどうお感じかは存じませぬが、拙者には、その世界、何とも気楽に見えまする」
「表向きはな。実際に、身を置けば分かる。れもんちゃんがいなければ、私はいつ自棄を起こすか分からん程度まで、うんざりしているのだ」
「なるほど、そんなものでござるか。ところで、今、父上は何をしてござるか」
「何というほどのことはしていない。俺を含め15人ほどのオッサンが集まって、読めば分かる書類の読み聞かせをしている。中身の無さでは日向ぼっこレベルで、出席者の表情の沈痛さでは謝罪会見に似ている。下らなすぎて耐えられない」
「うむ・・・」と、シン太郎左衛門、少し考えて、「『れもんちゃん音頭』でも歌いましょうか」
「そういう状況ではない」と申し出を断ろうとしたとき、ふと気が変わった。
「うん。小さい声で歌ってみて」
「畏まってござる」
「ただし、本当に小さな声でね」
「うむ。如何様にでもなりまする。拙者、最近知りましたが、右の玉を捻ると、音量が調節できまする」
「玉って、お前の側にいるヤツ?」
「うむ。右の玉は音量ツマミでござる。逃げ回るのを押さえ付けて捻りますれば、拙者の声が大きくなったり、小さくなったりする」
「・・・ちなみに、左の玉は?」
「エコー」
「マジか?」
「拙者、ウソは吐きませぬ」
「玉々に、そんな機能があったんだ・・・知らんかった。そしたら、音量控えめで、エコーを少し効かせてみて。それと、今回は苦労左衛門を呼ばないでね」
会議はその後かなり楽しかった。エコーの効いた『れもんちゃん音頭』をバックに、財務部長が重々しい口調で資料を読み上げる様が強烈に下らなすぎて、笑いを押し殺すのが大変だったし、その後も会議が終わるまで思い出し笑いを抑えるのに必死だった。長い時間、全身を戦慄かせていたので、最後には、すっかり体力を使い果たし、会議が終わっても、しばらくは椅子から立ち上がれなかった。
大体こんなふうに、1週間を乗り切った。
そして、今日、またしても日曜日。
鬱陶しい1週間を乗り切った安堵も手伝って、昨晩は、れもんちゃん前夜祭として、親子そろって遠足前日の小学生のように大ハシャギだった。そして、その勢いそのまま、今朝はいつもより相当早く目が覚めてしまった。
「シン太郎左衛門、起きたか?」
「起きましてござる」
「日曜日の朝だ」
「へへへへ。れもんちゃんの日でござる」と、シン太郎左衛門はだらしなく笑った。
「日曜日だ」
「へへへへ、れもんちゃん、可愛い」
「日曜」
「へへへへ、れもんちゃん、美人」
「ニチ」
「へへへへ」
「ニ」
「・・・それでは笑えぬ」
「なるほど。『れもんちゃん反応』は最低でも2文字を必要とするようだが・・・れ」
「へへへへ、れもんちゃん、エロ美人」
「ただし、『れ』だけは特別である、と。まあいい。『れもんちゃん反応』の実験をしたせいで、目が冴えてしまった」
とりあえず起きて、朝食を済ました。時計を見たら、まだ6時前だった。
シン太郎左衛門は、「父上、家にいても仕方ない。『レッツゴー、れもんちゃん!!』でござる」と言うが、出掛けるには、さすがに早すぎた。
「今、何時だか分かってる?卯の刻、明六つだぞ」
「うむ。それは確かに早い。普段から早々に家を出て、神戸駅周辺で持て余した時間を潰すのに四苦八苦してござるのに、今日は計算上いつもより更に5時間余計に持て余すことになりまするな」
「計算上だけでなく、実際そうなるのだ。もう少し家にいよう」
「いや、一度武士がこうと決めた以上、一刻の猶予もなりませぬ。父上、『レッツゴー、れもんちゃん!!』の時間でございまする」と、シン太郎左衛門は声を凄ませた。
渋々身支度をして、家を出たが、外はまだ暗かった。
ここから長い1日が始まった。
神戸駅に着いた。
ジタバタ動き回って、無駄に体力を使いたくなかったので、缶コーヒーを買って、バス乗り場のベンチに腰を下ろした。シン太郎左衛門は電車に乗った途端に眠ってしまい、まだ寝ているようだ。
「シン太郎左衛門、話をしよう」と誘ったが、返事がない。
しょうがないので、神戸駅周辺を少し散歩したが、店も開いていないし、また缶コーヒーを片手にベンチに舞い戻った。そんなことを何度となく繰り返した。そのうち身体がコーヒーを受け付けなくなったので、スポーツドリンクに切り替えた。味が変わったせいか、妙に美味く思えて、アッと言う間に飲み干した。時計を見ても、神戸到着から時間はほとんど経っていなかった。
「れもんちゃんに会うまで、まだ5時間以上もあるのか」
持ってきた本は電車の中で読み終えていたし、スマホを弄る気にもならなかった。間が持たないので、また缶コーヒーを買った。
そうこうしている間に、シン太郎左衛門が目を覚ました。
「もう神戸に着きましたか」
「ああ、とっくの昔にな」
「で、今何時でござるか」
「まだ後5時間ほど時間を潰さねばならん」
「悲惨でござるな」
「お前のせいだ」
「ところで父上」
「なんだ?」
「オシッコ」
「そうか、ちょうどいい。俺も行きたかった」
公衆便所で用を済ますと、またバス乗り場のベンチに戻ったが、途中で自販機で缶コーヒーを買おうとしたとき、
「父上、待たれよ。拙者が知らぬ間に、相当コーヒーを飲まれましたな。拙者の頭の上で、お腹がチャプチャプ鳴ってござるぞ」
「そうか」
「頭上に氷枕が吊るされているようで不快でござる。ましてや、れもんちゃんと会っている間に、用が足したくなっては一大事。お控えなされませ。5時間のうちに、氷枕を空にせねばなりませぬ」
「分かった。ただ、暇を持て余すと、コーヒーに手が伸びてしまうから、何でもいいから、話が切れないようにお前も協力しろよ」
「御意」
それから二人は、れもんちゃんに対する想いを語り合い、れもんちゃんを褒め称えたばかりでなく、「れもんちゃんしりとり」にうち興じたり、二人で「れもんちゃん絵描き歌」を歌って似てない似顔絵を紙が尽きるまで描いたり、とにかく必死になって、有り余る時間を出来るだけ有意義に過ごそうと頑張った。それは、やがて『シン太郎左衛門シリーズ』の総集編の様相を呈していった。シン太郎左衛門に「れもんちゃん音頭」を歌わせて、歌詞を覚えている1番だけは合唱もした。もちろん、その合間合間、シン太郎左衛門の「父上、オシッコ」に促されて、便所にも行った。
ちなみに、今回、「れもんちゃん音頭」のラップの歌詞は一部が、
自販機見つけて缶コーヒー
何本飲んだか、馬鹿おやじ
歌えど、踊れど、しりとりすれど
オシッコしたいが先に立つ
ベンチとトイレを行ったり来たり
同じ朝顔、見飽きたぜ
と変えられていた。
・・・これぐらいにしておくが、実際の感覚で言うと、この10倍の文章を書き連ねても足りないぐらいだった。
やっと時間になったので、クラブロイヤルに向かった。
れもんちゃんに会ってからは、時間はアッと言う間に過ぎた。今日は殊更短く思えたが、それは単に神戸駅周辺で朝から空騒ぎをしたことに因るものではない。れもんちゃんが、またしても大幅なパワーアップを遂げていたことが最大の要因である。
れもんちゃんの余韻によって、クラブロイヤルを出て以降、シン太郎左衛門はずっと「へへへへ」と、だらしなく笑っている。
れもんちゃんが、どこまで凄くなるのか、私には全く想像もできない。
シン太郎左衛門(あるいは神戸のベンチで総集編)様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは着脱式の武勇伝)様
ご利用日時:2023年9月24日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士を自称している。それが何を意味するのか、私にはよく分かっていないが、立ち入るのは面倒なので、受け流している。
日曜日の朝。
今日も、れもんちゃんに会いにいくから、二人ともニコニコ笑顔で過ごしていた。
と、シン太郎左衛門が、「『シン太郎左衛門シリーズ』も早20回を数えまする」と、なんとなく誇らしげだ。
「20回か・・・もうそんなになるのか・・・」と言ってはみたが、何の感慨もなかった。
「それもこれも読者の皆様のご愛顧の賜物でござる」
「『読者の皆様』って、誰のこと?」
「それは・・・れもんちゃん」
「そうだ、れもんちゃんだ。れもんちゃんだけだ。少なくとも俺は他の読者の存在を感じたことはない。れもんちゃんは、『この前来てくれたお客さんが、シン太郎左衛門、面白いって言ってたよ』とか言ってくれるが、優しいウソに決まってる。こんなもの、面白いはずがない」
「れもんちゃんしか読んでいない上に、唯一の読者であるれもんちゃんにも余計な気を使わせているだけということでござるな」
「そういうこと」
「我々親子、相当にイタい奴らでござる」
「そういうこと。お前、まさか世間で『シン太郎左衛門シリーズ』が人気沸騰で、ファンレターの一つでも来ると期待してたのか?」
「うむ。そのうち『時下益々の御活躍、お慶び申し上げ候。貴殿のシリーズ、毎週、鶴首致しおり候』というメールでも来るかと」
「そんなことあるか」と笑い飛ばしかけたが、苦労左衛門の件が頭を過り、急に不安になった。
「お前、まさか変なことしてないよな?」
「うむ。変なことはしてござらぬが・・・」
「が・・・?」
「クラブロイヤルの待合室で隣りに誰かおられれば、声をかけまする。『もし、お隣の御仁。不躾ながら、貴殿、武士ではござらぬか』と訊いて、『麿は武士ではおじゃらぬ』とあれば、『これはお公家さま。ご無礼致しました』と詫びまする。『いかにも拙者、武士でござる』とのことであれば、れもんちゃんを宣伝するが、決まって『れもん姫のご高名はかねがね聞き及びまするが、確かいつも予約が一杯のはず』との事でござるによって、『シン太郎左衛門シリーズ』を紹介し、『拙者、このシリーズに出演してござる。是非ご一読の上、ご意見・ご要望は、こちらまで』と父上のメールアドレスをお伝えする」
しばし言葉を失った。
「お前・・・そんなことをしてたのか・・・即刻、メアドを変更しよう」
「いや、それには及びますまい。結局、誰も『シン太郎左衛門シリーズ』は読んでない」
「う~ん、それはそうだが・・・いずれにせよ、今後、隣の武士と話すのは止めてね。特に『シン太郎左衛門シリーズ』を勧めるのは絶対止めること。恥ずかしすぎる」
「うむ」
こんな他愛のない会話を交わし、時間になったので、「レッツゴー、れもんちゃん!!」を連呼しながら家を出た。
駅までの道々、隣家の御曹司、ニートの金ちゃんに出会った。正確を期せば、疲労の余り悲壮な表情を浮かべる金ちゃんを引き摺りながら溌剌と散歩するラブラドール・レトリバーのラッピーに出会った。
「ラッピー、いつも元気だね。でも、もう少しお手柔らかにしてあげないと、金ちゃん、死にかけてるよ」と声をかけた。
それから、しばらく一緒に歩いていると、川のそばでラッピーが何を思ったか、突然トップスピードで駆け出した。
「ラッピー、だめ!」
金ちゃんは必死になって追い縋ったが、バタバタとした足取りで今にも倒れそうだった。
「おじさん、助けて!」との叫びに全速力で駆け付けて、金ちゃんの手を離れたリードの端を間一髪掴み取った。
しかし、ラッピーのパワーは、想像を遥かに超えていた。川に向かって猛然と進むラッピーを引き留めることは、私の手に余る難事業だった。
「ラッピー、止まってくれ!」
このまま土手に突き進めば、斜面に足を取られて派手に転び、一気に加速のついた私の身体は、ラッピーさえも追い抜いて、瞬く間に川面に大きな水柱を立てるだろう。
思わず、「シン太郎左衛門、お前も手を貸せ」と叫ぶと、ズボンのチャックがスッと下り、小さな影が宙を舞った。
次の瞬間、シン太郎左衛門は、ラッピーの背に乗り、首輪をしっかりと握り締めていた。ただ「乗りこなしている」と言うのは当たらない。「必死にしがみついている」だけで、何の助けにもならなかった。
「シン太郎左衛門、前言撤回だ。戻れ」
「無理でござる。ラッピーを止めてくだされ」と言ったシン太郎左衛門の声は恐怖に震えていた。
「それができれば、とっくにやっている」
もう土手は目前だった。私の体力も尽きようとしていた。
そのとき、「なんと・・・うむ・・・子猫が・・・畏まってござる。父上、ラッピー曰く、猫が溺れてござる。ラッピーと救出いたす。縄を離してくだされ」
「大丈夫か?」
「心配めさるな。拙者は武士でござる」
「分かった。今日は、れもんちゃんの日だぞ。くれぐれも忘れるな」
「忘れはせぬ。れもんちゃんでござる」シン太郎左衛門は状況度外視で、へへへへと笑った。
私の意思によらず、リードは私の手から離れていた。
黒いラブラドール・レトリバーは、土手の斜面を一気に駆け下ると、静かに流れる川に大跳躍でダイブした。そして、水をくぐって、すぐに頭をもたげた。シン太郎左衛門も一緒だった。二人が目指す先には、確かにキジトラの子猫が流されていた。ラッピーは俊敏な動きで泳ぎ寄り、シン太郎左衛門が手を貸して、子猫をラッピーの背に登らせた。
「拙者が参ったからには、もう心配無用でござる」とネコに語りかけて、シャーと怒られると、シン太郎左衛門はこちらに手を振り、「父上、もう大丈夫でござる。駅で落ち合いましょうぞ。ラッピー殿、忝ないが駅の近くまでお願い致しまする」
私は、土手の遊歩道に立って、彼らを見送った。
穏やかな秋晴れの空の下、子猫とシン太郎左衛門を背に乗せて、悠々と泳ぐラッピーの優美さに、さすがは『チームれもん』のメンバーだと惚れ惚れとしていると、
はあ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたれもん花・・・
川面を渡る風に乗り、シン太郎左衛門の歌声が聞こえてきたが、ラッピーたちが遠ざかるにつれ、やがて聞こえなくなった。
シン太郎左衛門は駅のベンチにポツンと座っていた。隣に座ると、周囲を見回しながらズボンのチャックを下ろし、「戻れ、シン太郎左衛門」と言うと、ヤツは三段跳びの要領で定位置に戻った。カチッというラッチを掛ける金属性の音がした。
「お前が着脱式だとは知らなかった」
「拙者、着脱式の武士でござる」
「なるほどね。世の中には不思議なことが沢山あるなぁ。でも、最大の神秘は、やっぱり、れもんちゃんだ」
「当然でござる」
「これまで何の武勇伝もなかったお前だが、今日、まったく畑違いのジャンルにせよ、小さな武勇伝を作ったな。これをクチコミで、れもんちゃんに伝えよう」
「そうしてくだされ」
「それと、お前、川の臭いがする」
「神戸に着いたら、外して洗面所で丁寧に洗ってくだされ」
そのとき、ホームに新快速到着のアナウンスが流れた。
言うまでもないことだが、今日も、れもんちゃんは凄まじかった。
そして家に戻ってから、隣家を訪ねると、金ちゃんの家には新しい家族ができていた。私の勧めによって、そのキジトラの名前は、もんちゃんになった。
さる高貴なお方に因む名前だが、そのまま使うと畏れ多いので、少し変えてある。
シン太郎左衛門(あるいは着脱式の武勇伝)様ありがとうございました。
ゆあ(22)
投稿者:チョコザップ様
ご利用日時:2023年9月20日
ゆあちゃんと2回目の誕生日のお祝いが出来ました。お会いする度に笑顔で喜んでもらえて、いつも最高の時間を過ごせています。太客にはなれませんが、良客でいたいといつも思っています。これから忙しくなるようですが、身体に気をつけて頑張って下さいね。気になる事は遠慮なく言って下さいね。我慢して嫌われるより、言ってもらえる方がいいですから。ゆあちゃんこれからもよろしく。また来年もお祝いができますように。
チョコザップ様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』様
ご利用日時:2023年9月17日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近は剣術の稽古もサボってばかりだし、まずもって本物の刀を持ったことがないと言うのだが、それでも武士であると、当人は主張している。
今日も、れもんちゃんに会ってきた。
それに先立ち、今朝、家を出る前に、シン太郎左衛門との間で一悶着あった。お出迎えのときの、れもんちゃんの笑顔が眩しすぎると、私がうっかり口を滑らせてしまったのが、事の起こりだった。シン太郎左衛門は憤然として、「拙者にも『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拝む権利がござる」と主張し、待合室で呼ばれたらズボンとパンツを下ろして、れもんちゃんとの対面に臨むべしと要求してきた。
「そんなこと出来ると思うか?スタッフさんだけでなく、他のお客さんも見てる前で、そんなことをしてみろ、頭を掻き掻き、『すみませんねぇ』と申し訳なさそうにしていても、出禁はほぼ確定だ。それっきり、れもんちゃんに会えなくなる」
シン太郎左衛門は、こんな分かりやすい説明でも納得せず、
「『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拙者に見せないつもりなら、父上も見てはならん。お出迎えのときには、頭からスッポリ、コンビニのレジ袋を被られませ」などと理不尽なことを言い出した。
「嫌だ。足元が見えなくて危ないし、れもんちゃんに『この人、どうしちゃったの?なんか恐い』って気持ち悪がられる。それでなくても、変なクチコミを書き散らす変な客なのに、これ以上印象を損なってどうする」
しかし、シン太郎左衛門は「『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』に関しては一歩も譲れませぬ」と、徹底抗戦の構えである。れもんちゃんに関することでヘソを曲げたシン太郎左衛門は本当に手が付けられない。
「感動は分かち合えば倍になる、と言いまする。みんなと喜びや感動を分かち合いたいという心もなく、父上はクチコミを書いておられるのでござるか」と面倒臭いことまで言い出した。こうなると、もう普通のやり方では解決しないのだ。
「分かった。そこまで言うなら、どうにか『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を見せてやる」
「『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』、見せてくださりますか」とシン太郎左衛門は満面に笑顔を耀かせた。
「うん。ただ今回限りだぞ」
「一度で我慢いたしまする」
「それに、さっきも言ったように、正面突破を試みれば、出禁が待っている。だから、搦手から攻める」
「うむ、『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拝むには並大抵ではない危険が伴うこと、拙者も充分承知でござる。して、どのような策略を講じておられまするか」
「案内を受けて、カーテンが開いた瞬間、インディアン・ダンスを始める」
「な、なんですと・・・まったく訳が分からん」
「今から半世紀前、小学校の学芸会で踊ったきりだが、簡単すぎて忘れようにも忘れられない。いきなり、それを踊る。れもんちゃんは唖然として、表情が凍り付く」
「父上、お気は確かか」
「お前は、インディアン・ダンスを見たことがあるか?」
「ありませぬ」
「こんな感じだ」と、一くさり踊ってやった。
「どうだ?」
「なんとも言えぬ気マズさでござる。口を叩きながら『お、お、お、お』と言う、雄叫びのようなものが、身を捩りたくなるほど気持ち悪い」
「だろうな。俺がふざけたことをするのはクチコミの中だけだ。れもんちゃんの前では、一貫して真面目な紳士で通してきた。れもんちゃんも、まさか今日に限って、カーテンが開いた途端、インディアン・ダンスが始まるとは想像もしていない。『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』はカチンと音を立てて凍り付く。瞬間冷凍だ」
「そんなことしていいのでござるか」
「お店の禁止事項に『インディアン・ダンス』とは書いてないが、それでもダメに決まってる。ただ、そのまま勢いで部屋に入って、ズボンを脱ぎながら、事情を説明する。お前が外に出たぐらいのタイミングで、れもんちゃんは状況が呑み込めて、強張った表情が解凍される。お前は、念願の『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拝むことができるわけだ。どうだ?」
「うう・・・これはひどい。れもんちゃんは本当に健気な頑張り屋さんでござる。拙者、そんな可愛く優しいれもんちゃんを不快な目に遭わしてまで、自分の想いを遂げる気はない。今回の件はなかったことにしてくだされ」
「賢明な判断だ。それでこそ武士だ。今日、れもんちゃんに会ったときに、シン太郎左衛門が、こんな立派な考えを持っていることを伝えよう。れもん姫から特別素敵なご褒美があるだろう」
「特別素敵なご褒美でござるか・・・へへへへ」
シン太郎左衛門のだらしなくニヤけた顔は、ちっとも武士らしくなかった。
そして、れもんちゃんは、今日もやっぱり凄まじかった。
クラブロイヤルからJR神戸駅までの帰り道、シン太郎左衛門と私は、れもんちゃんの底無しのエロさについて、千万語を費やして激論を交わしていた。
神戸駅から新快速に乗っても、激論は止まらない。双方、口角泡を飛ばして、れもんちゃんがどれだけ凄いかを巡って火の出るような大論争を繰り広げた。
自宅の最寄り駅で降りた後も、ホームのベンチで「れもんちゃんエロすぎ問題」を巡る死に物狂いの論戦が再燃し、その余りの熱量に駅舎が炎上し、消防車が出動した。
夜空を焦がすほど燃え盛る駅舎を背にして、我々は家に向かって歩いていった。もちろん激論は続いている。『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を論点に加えなくても、我々親子にはすでに論じなければならない「れもんちゃん問題」が山積していた。
我々二人の主張は、ほぼ完全に同じだった。しかし、論争には終わりが見えなかった。
シン太郎左衛門と『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とシリーズ最終回様
ご利用日時:2023年9月10日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。当人はそう言って譲らないし、議論するだけの値打ちもない話だから、ソッとしておいてほしい。
今日も、れもんちゃんに会った。
帰りの電車の中、しばらくはシン太郎左衛門と、れもんちゃんは今日も破格の凄さだったとか、可愛さが五臓六腑に染み渡ったとか、ああだ、こうだ、そうだ、どうだと、れもんちゃんを讃えてまくった。
そのうち、シン太郎左衛門は黙り込み、れもんちゃんの余韻に浸り出したので、私はこうしてクチコミを書き始めた。
どれくらい時間が経ったか、シン太郎左衛門が話し掛けてきた。
「父上、またクチコミでござるか」
「そうだ」
「毎回、よく似た話を書いて、飽きませぬか」
「生活の一部になってしまったから、飽きるとか、そういう感覚がない」
「なるほど。ところで、父上、『シン太郎左衛門』シリーズは、最後どのような結末となりまするか」
「そんなこと、考えたこともない」
「それはいかん。拙者、『シン太郎左衛門』シリーズの最終回を考えました。使ってくだされ」
「今回のクチコミで?」
「うむ。父上のお気に召せば、今回使ってくだされ」
「でも最終回なんだよな」
「シリーズ最終回でござる」
「来週も、れもんちゃんと会う予約をしてるけど、そのクチコミは書かないってこと?」
「それはそれで、書いてくだされ」
「来週は『シン太郎左衛門』シリーズじゃないクチコミを書くってこと?」
「もちろん『シン太郎左衛門』シリーズで書く」
「でも、今回が最終回なんだよな?」
「最終回でござる」
「それなのに来週も『シン太郎左衛門』シリーズの続きなの?・・・それとも再放送?」
「クチコミの再放送とは初めて聞く。もちろん新作でござる」
「それじゃ、今回が最終回にならないだろ」
「最終回と最後の回が同じでなければならぬという決まりはござらぬ。今回は最終回でござるが、最後ではない。その後もダラダラと続けるのでござる」
「趣旨が理解できん。そういうことは普通はしない。なんで、そんな面倒くさいことするの?」
「話の性質上、やむを得ない。拙者の考えた最終回はいつ起こるか分からない事件を扱ってござる」
私はどう応じたものか、すぐに考えが纏まらなかった。
「う~ん、確かに『シン太郎左衛門』シリーズは、クチコミとしては異例のものではある。しかし、一応はドキュメンタリーなんだ。堂々と作り話だと言われたら、却下するしかない」
「作り話ではござらぬ。ただ、いつ起こるか分からぬのでござる」
「う~ん。じゃあ、どんな話なの?聞きたくないけど聞いてやる。ホントに聞きたくないけど」
シン太郎左衛門は神妙な顔で、咳払いをすると、「父上、れもんちゃんの故郷がどこか、ご存知か」
「れもん星だ。れもんちゃん自身が言っていた。れもんちゃんは、れもん星人だ」
「いかにも。それゆえ、いつの日か親戚の結婚式に出席するため、れもん星に帰ってしまう」
「そういうこともあるだろうさ。いわゆる帰省だ」
「それを許していいのでござるか」
「止める理由がない。お祝い事だし」
「もし、れもんちゃんが親戚の結婚に参列するとなれば、この最終回が発動いたしまする」
「どういうこと?」
「父上はご存知ないのでござるか、れもん星の結婚式は最短でも5年は続くのでござるぞ」
「うそ~。知らんかった。そもそも俺は、れもん星の風習について何一つ知らん。5年以上も結婚式を続けるのかぁ。れもん星人って、のんびりした人たちだなぁ。れもんちゃんのおっとりしたところは、れもん星人らしさの表れということだな」
「何を悠長なことを仰せでござるか。れもんちゃんが親戚の結婚式で帰省したら、もう二度と会えないかも知れませぬ」
「それは困る。確かに5年は長すぎる。戻ってきてくれたときには、俺たちは土に返ってるかもしれん」
「そうでござる。大変なことでござる。なので拙者は戦いまする」
「戦うの?誰と?」
「れもん星人の催眠光線に操られた武士たちと戦う」
「随分と話が飛躍した。でも、間を埋めなくていいよ。割りと簡単に推測できるからね」
「うむ。このような事態を見越した最終回でござる。前・後編に亘り、れもんちゃんを地球から奪われまいとする拙者・シン太郎左衛門と催眠光線で魂を抜かれた武士たちとの血みどろの闘いを描きまする」
「まさか、それを俺に書かすつもり?」
「うむ。拙者は一人、相手は数千。多勢に無勢でござる。拙者は全身に刀傷を負い、最後は、神戸駅の改札あたりで、感動のセリフを言った後、仁王立ちで力尽きるのでござる」
「そうなんだ。ちなみに、その感動のセリフは聞かせないでね。せめてもの救いとして」
「このセリフが大事でござる」
「いや、いい。却下。100%無理」
「タイトルは『武士よさらば(シン太郎左衛門、暁に死す)』様でござる」
「人の話、聞いてた?却下だって」
「なんと。何ゆえ却下でござるか」
「お前と俺では見えてるものが違うんだ。お前目線では、れもんちゃんのための壮絶な戦闘シーンが繰り広げられて、ヒロイズムに浸れる話なのかもしれないが、俺目線ではそうじゃない。武士といっても、令和の武士には漏れなくお父さんが付いてくる。俺から見れば、神戸の町を歩いていたら、催眠光線を浴びて表情が虚ろな、下半身剥き出しの男たちに突然取り囲まれて、訳も分からぬまま、押しくら饅頭で揉みくちゃにされるという理不尽な話でしかない。全く意味不明だし、生理的にも受け付けない」
「なるほど。つまりは、ミクロとマクロの違いでござるな」
「う~ん。何とも返答のしようがない」
「いずれにせよ。れもんちゃん程エモい娘はこの世に二人といないのでござる。ずっと地球にいてほしい」
「お前がその言葉を使うのは頂けないが、れもんちゃんはまさにエモで、その存在は奇跡と呼ぶべきものだからな」
「それが『シン太郎左衛門』シリーズのメッセージでござる」
「そうだ。ギュッと詰めたら約20文字だ」
「父上は毎週毎週その20文字を何千文字にも膨らませておられる。大変なことでござるな」
「そうだ。やっと分かったか。メッセージの次元では、『シン太郎左衛門』シリーズは毎回が再放送なのだ。ストーリー的にも何の発展もないしな」
「つまり、最終回はとっくの昔に過ぎているということでござるな」
「そういうことになる」
私がそう言ってしまうと、親子揃って、ポカンとしてしまった。しばし時間をおいて、シン太郎左衛門が、「また来週も楽しみでござる」
「そうだな。れもんちゃんには、親子揃って毎週楽しみにしてるんだから、親戚の結婚式に列席するのは止めてね、って頼んでおこう」
「そうしてくだされ」
「ちなみに、れもん星では結婚式が5年も続くって、どうして知ったの?」
「れもんちゃんのことをぼんやり考えているとき、そういうことだったら、嫌だなぁ、と思ったのでござる」
「・・・別に、れもんちゃんから聞いたんでもなく、苦労左衛門の予知とかですらないんだ・・・」
「うむ。拙者の単なる臆測でござる」
最早手遅れ、歯ぎしりをするのが関の山だった。
シン太郎左衛門とシリーズ最終回様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様
ご利用日時:2023年9月3日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。もちろん証拠はない。
いつも通り、日曜日の朝。
目覚ましが鳴るのを待たずして、スカッと目が覚めた。清々しい朝、素晴らしいれもんちゃん日和だ。
シン太郎左衛門も、すっかりはしゃいでいる。「今日はまた何時にも増して、れもんちゃん日和でござるな」
「煌めくばかりに美しい朝だ」と応じた後、よい朝すぎて、布団の上でインディアン・ダンスでも踊ってやろうかと思っていると、シン太郎左衛門が、突然「あれは、クロウ左衛門でござった」と言い出した。
「なんの話?」
「あの日、拙者が歌っている間、楽器を演奏していた者の話でござる」
ああ、そうだ。すっかり忘れていた。今回は前回からの続きだったのだ。
「クロウ左衛門か・・・」
「いかにも」
「そうか、あれはやっぱりクロウ左衛門だったのか・・・」
「クロウ左衛門をご存知でござるか」
「いや、知らん。全く知らん。有り体に言えば知りたくもない。だって、そいつ、名前からして武士だろ?」
「クロウ左衛門、確かに武士でござる」
「やっぱりそうだ。また武士だ。俺、武士が本当に苦手なんだよなぁ。ましてや九郎左衛門なんて言われると、武士がズラッと9人並んだ様が目に浮かんでゲンナリする」
「何を言っておられるか判りかねまする」
「九郎左衛門なら太郎から八郎まで兄さんがいるんだろ?」
「は?いや、クロウ違いでござる。大変な苦労人ゆえに、苦労左衛門でござる」
「あ、そっち。なんだ、渾名か」
「渾名ではござらぬ」
「それが本名なの?」
「いかにも」
「お前、原因と結果を取り違えてるな。そいつの苦労の原因は、その名前だ」
「なるほど・・・そんなことがあるやも知れませぬ」
「いや、間違いなく、そうだ。それで、その苦労左衛門は何者なの?」
「苦労人でござる」
「それは、さっき聞いた。俺が訊いてるのは・・・そいつも、つまり、誰かの、おチン・・・か?」
「聞き取りませなんだ」
「同種のネタ、前に使ってる。聞き取れなくても分かってるんだから、答えろ」
「苦労左衛門は、おチンでござる。いや正しくは、おチンでござった」
「ござった・・・今は違うのか?」
「若干違う」
「『若干違う』・・・嫌な言い方だな。えっ、もしかして、苦労左衛門って、これか?」
私は「小さく前へ倣え」の格好から甲を表に両手をプランと垂らしてみせた。
「それでござる」
「幽ちゃんだ」
「幽ちゃんでござる」
「武士の幽霊かぁ。苦労左衛門、やりたい放題だな。この話、止めない?」
「いやいや、苦労左衛門ぐらい出来た人物もござらぬ。それはそれはモノの道理を弁えた立派なご仁でござった」
「分かった。いや、何にも分からん。結局、その苦労左衛門って何者?」
シン太郎左衛門は、それから、苦労左衛門なる者との出会いに始まり、いかに親交を深め、この世での別れの後に再会を果たすとことなったかを語って聞かせた。とてもとても長い話で、間にコーヒーを3杯お代わりした。
「・・・以上でござる」
シン太郎左衛門が語り終えると、私は、しばしボンヤリしてしまった。
「とんでもなく長い話だった・・・でも、なんかいい話だった。れもんちゃんに対するお前の想いに動かされて、苦労左衛門が冥界の掟を破るシーンとか、よくある展開だと感じつつも、感動してしまった」
「真実でござる」
「分かってる」
「クチコミにぴったりでござる」
「その点については同意しかねる。かなり大幅にカットせねばならん」
「長すぎまするか」
「れもんちゃんと直接関係ない話が延々と続くのは、『シン太郎左衛門シリーズ』ではよくあることだが、それにしても、これは常軌を逸している。これまでの『シン太郎左衛門シリーズ』全作を足し合わせたよりも、まだ長い。その上、他にも大きな問題がある」
「一体どこが不都合でござるか」
「一々指摘して回るのが嫌になるぐらい問題だらけだ。たとえば、二人が初めて出会った場所からしてマズイ」
「それは、また何故でござるか。拙者には、何の障りもなく思えまする」
「少し考えてみろ」
シン太郎左衛門、首を傾け思案顔を浮かべていたが、特に思い当たるものはなく、「う~ん」と唸りながら居眠りを始めた。
「起きろ!」
シン太郎左衛門は目を擦りながら、「拙者には分からん。その場所で出会ったと書けなければ、コンビニのレジに並んでいるときに出会ったとでもしてくだされ」
「そんなことをしたら、後で辻褄が合わなくなるだろ。それに作り話はダメだ。『シン太郎左衛門シリーズ』はドキュメンタリーだから、たった一つの嘘も含まれてはいけない。都合が悪い部分は、書かずに済ますしかない」
「どこを削りまするか」
「残念ながら、大半を削る」
「では、どこを残されまするか」
「たとえば、あの場面がいい。3度目に会ったとき、苦労左衛門が『今宵を以って今生の別れ』と告げ、自らは日もなく儚き一生を終えるが、シン太郎左衛門は1年内に絶世の美女との出逢いがあるだろうと予言するシーン。あのシーンは使おう」
「父上、なかなかお目が高い。では、その段に限り、今一度語りましょう」
「別に二度も語ってもらわんでいい」
「いやいや、大半を消されるとあらば、残されるところは大事に扱ってくだされ。拙者の語るとおりにお書き願いたい」
そう言うと、シン太郎左衛門は、講談師か落語家のように一人二役で語り出した。
「シン太郎左衛門殿、今宵を限りに、生きて再びお会いすることはございますまい」
「それは何ゆえ」
「理由はお訊きくださいますな。拙者、我が身と周囲に起こることを予知する力を有してござる。拙者、遠からず、この世を去りまする故、今宵が今生の別れにござる」
「苦労左衛門殿のお言葉でござれば、偽りはござりますまい。お互い武士でござるによって、名残惜しいとは申しませぬ。短い間ではござったが、ご交誼に感謝申し上げまする」
「拙者も御礼申し上げまする。ところで、拙者からの置き土産、受け取ってくださりませぬか」
「置き土産とな。いかなるものでござるか」
「拙者には、シン太郎左衛門殿に遠からずよいご縁があることも見えてござる」
「よい縁とな」
「いかにも。シン太郎左衛門殿は、向後一年内に素晴らしい姫君と出逢われまする」
「それは誠でござるか」
「うむ。間違いござらぬ。宇宙で一番のよい娘でござる。果物に因んだ名を持ちまするぞ」
「果物に因む名でござるか・・・梨ちゃんでござるか」
「あまり語呂が良くないようでござる」
「では二十世紀ちゃん」
「違いまする」
「長十郎ちゃん」
「シン太郎左衛門殿、一旦梨から離れてくだされ」
「メロンちゃん」
「おお、一気に近付いた気が致しまするぞ」
「ドラゴンフルーツちゃん」
「あ、また離れた。そんな名前の姫はござらぬ。シン太郎左衛門殿、名前で遊んではなりませぬぞ」
「うむ。失礼つかまつった。では、シャインマスカットちゃん」
「おいおい。何だ、これ?」私は思わずシン太郎左衛門の話を中断した。
「さっき聞いた話と全然違うぞ。さっきはあんなに感動的だったのに、今度は下らない事ばかり言ってて、全く話が進まない。この話のどこで感動できるか言ってみろ」
「さっきと同じ話でございまする。父上の耳が肥えたのでござる」
「そんなこと、あるか!シン太郎左衛門、お前、その場の思い付きで話をしてるな」
「とんだ言い掛かり。『シン太郎左衛門シリーズ』は全て真実。嘘はないのでござる。まあ、今しばしお聞きあれ」と、宥められ、再びシン太郎左衛門の演芸大会に付き合わされた。
「その姫の名は置いておきましょう。肝心なのは、その後でござる。絶世の美女との出会いでシン太郎左衛門殿は人柄も温厚になり、やがて、その麗しい姫に捧げる音曲を作ろうと一念発起されまする。これは決まったことでござる。そして、その音曲の演奏にあたって、お囃子の一つもないことに物足りなさを覚えられまする。これもまた避けられないことでござる。このように感じられたときは、必ず拙者をお呼びくだされ。拙者、骨肉は滅んでも、魂魄にてシン太郎左衛門殿をお助け致す。これが拙者の置き土産でござる」
「忝なく頂戴つかまつる。苦労左衛門殿は、音曲に通じておられまするか」
「うむ、諸芸一般身に付け、音曲は様々な楽器の音を声色にて奏で分けまする。清朝の初めに書かれた『聊斎志異』にも書かれている『口技』と申すもの。拙者、二十ほどの楽器であれば、容易く同時に操りまする。先日、日本公演を予定していた海外のオーケストラが、台風で来日が遅れたため、初日は拙者が代役として公演を成功させました。ベートーヴェンの交響曲を一人でこなすのは、さすがに大変でござった」
「それはご苦労でござった。ところで、『口技』と言われましたな。『口技』はれもんちゃんも得意とするところでござる」
「うむ。シン太郎左衛門の言われる口技は、恐らく別のものでござろう」
「確かに。拙者は断然れもんちゃん派でござる」
「なんだ、これ?ひどいなぁ。全く別の話になってる。さっきの話には、そこはかとなく哀愁が漂っていて、それでいて妖気に溢れていた。今聞いたのは違う。ただ単に『シン太郎左衛門』だ」
「先刻、父上は飲み食いしながら、勝手な想像で頭を一杯にしてござったのであろう。全く同じ話でござる」
「まあいい。こんなことで言い争いも無益だ。お前の言うとおり、同じ話だったにせよ、2度目にはまるで違う話に聞こえて、ガッカリした。これは間違いない事実だ。ところが、れもんちゃんとは、何十回も会っているが、期待をがっつり超えられてビックリすることはあっても、ガッカリしたなんて一度もない。えらい違いだ」
「うむ。れもんちゃんと比べられても困る。勝てるわけがござらぬ」
「まあいい。とにかく、話を纏めてしまおう。お前は苦労左衛門から楽器演奏について困ったことがあれば、助けを求めよと言われたわけだ」
「いかにも。『南無八幡大菩薩、我に力を与えたまえ』と強く念じれば、馳せ参じると」
「それって、似顔絵・・・いやいや、そんなこと、どうでもいい。とにかく、お前は、その後、苦労左衛門の予言どおり『れもんちゃん音頭』を作り始め、『ここはリンキンパークっぽくしたいな』と感じたとき、苦労左衛門の置き土産のことを思い出したと」
「そうでござる」
「それで、楽器演奏を学ぼうと、言われたとおりに『南無八幡大菩薩』云々と唱えたら、苦労左衛門の霊が現れて稽古をつけてくれるようになったわけだ」
「相違ござらぬ。毎日早朝、それは厳しい稽古でごさった」
「俺のお気に入りのブランケットの中で朝練をしてた訳だ。でも、モノになったのはドラムにボーカルを被せるところまでだったんだな」
「うむ。あの日、他の楽器は苦労左衛門を呼び立てて、演奏してもらったのでござる」
「大体、こういう話だ」
「かなり乱暴に縮めてありまするが、粗筋はこんなものでござる」
「そうか・・・やっぱり、こうなった・・・全く怖くない。怪談って予告しておいて、このザマだ」
「さすがに削り過ぎましたな」
「削ったのが悪い訳ではない。元から怖くないのだ」
気まずい空気が漂い始めたのを誤魔化すように、「ところで、苦労左衛門の幽霊って、どんな風に見えるの?」
「定かには見えませぬ。湯気のようなものでござる」
「ふ~ん、湯気か・・・そこだけ景色が微かに歪むって感じ?」
「うむ。苦労左衛門については、そんな感じでござる」
「『苦労左衛門については』って、他の幽霊がいるみたいな言い方だな」と笑ったとき、シン太郎左衛門の表情が急に険しくなった。
私は何かを・・・そうだ。私は悟った。私は、苦労左衛門の父親の存在を完全に見落としていたのだ。湯気のようだという苦労左衛門はただモザイクがかかっているばかりであるに違いない。
私と目を合わせていたのも束の間、シン太郎左衛門の視線は、私の肩越しに、ダイニングの壁から天井へとジリジリと移動していった。のどかなはずの朝の風景が一気に塗り替えられてしまった。
私は天井を見上げる気にはならなかった。どんな最期を遂げたか分からぬ中年男性が、股間ばかりモザイクがかかった全裸で、部屋の壁から天井へと這い回る姿など見たくもない。まして、そんなヤツが知らぬ間に私のブランケットの中に入り込んでいたかと思うと背筋が凍りついた。
と、シン太郎左衛門は突然莞爾として、「久しぶりに見た。立派なカブトムシ」
その言葉の意味は俄には理解できなかったが、やがて全身の脱力感とともに腑に落ちた。
そいつは、開け放った窓から出ていった。
「お前の望むとおり、逃がしてやったぞ」
シン太郎左衛門は「達者で暮らせよ」と手を振っていたが、私にはもうどこに行ったやら分からなかった。
シン太郎左衛門が「行ってしまった」と言うので、窓を閉めた。そろそろ出掛ける準備をする時間だ。
「立派なカブトムシでござったな」と、シン太郎左衛門は言うが、私にカブトムシの目利きは出来なかった。
「ちなみに、苦労左衛門の幽霊は、理由は知らぬが単体でござる。親父殿は同伴せぬので見たことがござらぬ」
「そうか。少しホッとしたよ。でも、そんなことはもうどうでもいい。怪談もカブトムシも済んだ話だ。さあ、そろそろ出掛けるぞ」
「れもんちゃんに向けて出陣でござるな」
「いざ出陣じゃ。いつもの新快速に鞍を載せておけ。一鞭で神戸に到着してくれようぞ」
「れもんちゃんの笑顔が目に浮かびまするな」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
我々はもう走り出していた。
シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様ありがとうございました。
あすな【VIP】(25)
投稿者:コウヘイ様
ご利用日時:2023年9月6日
ソープランドも行為も初めてでしたが、快くこちらの話を聞いてくださり、同じように向こうからも会話を広げて貰い、素敵な雰囲気のまま沢山甘えさせてもらえました。
とても幸せになれました。ありがとうございました。
コウヘイ様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と夏の忘れ物様
ご利用日時:2023年8月27日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ただ、武士らしい姿を見た記憶は余りない。
今日も、れもんちゃんに会ってきた。最近、れもんちゃんのパワーアップが加速してきていて、親子揃ってキリキリ舞いさせられた。
神戸からの帰りの電車でも、れもんちゃんの余韻が強烈すぎて、二人とも言葉が中々出てこない。
「凄すぎでござった・・・」
「今日のれもんちゃん?それとも、この前の井上尚弥?」
「どっちも・・・」
「だな・・・どっちも途轍もないパワーの持ち主だし、どっちも飛んでもなく進化している」
「れもんちゃんの進化は驚異的でござる」
1時間以上、電車に乗っていたが、思い起こしても、車中の会話はたったこれだけだった。
れもんちゃんの余韻に圧倒されまくり、危うく自宅の最寄り駅を乗り過ごしそうになった。慌てて電車から飛び降りると、ホームのベンチに腰を下ろした。
「いやぁ、危なかった。それにしても、凄かったなぁ、れもんちゃん」
「れもんちゃんの妖しい美しさは恐い程でござった」
「そうなんだ。恐い程・・・」
「ハチャメチャな可愛さも恐い程でござった」
「恐い・・・?この言葉、妙に引っ掛かる・・・」
「恐い・・・あっ、恐いと言えば」
「しまった・・・忘れてた」
「父上、今回は『シン太郎左衛門の怪談』と仰せでござった」
「やってしまった・・・前回のクチコミの最後に次回予告をして、翌日には書き上げて、あとは投稿するだけにしてあったのに、今日れもんちゃんが凄すぎて、『怪談』が記憶から吹き飛ばされてしまっていた」
「と言っても、予告した以上、『忘れてました』では済まされますまい。今からやりましょう」
「無理、無理。ここまで、『れもんちゃんの恐るべき進化をしみじみと寿ぐ回』として話を進めたのに、今更やり直しは利かん。俺は徹底的に気分屋さんで、気持ちの切り替えがメチャ下手クソなのだ」
「還暦男の言うこととも思えん。一度約束した以上、武士に二言はないのでござる。始めまするぞ」
「俺は早く夕飯が食べたい。駅のベンチで怪談話を聞く気分じゃない。おまけにメチャ長い話だし」
「問答無用」と言って、軽く咳払いすると、シン太郎左衛門、「ところで、父上、あれはクロウ左衛門でござった」と、『怪談』の口火を切った。
こうなれば付き合うしかない。嫌々ながら「クロウ左衛門?それ、何の話?」と応じた。
「あの日、拙者が歌っている間、楽器演奏をしていた者の話でござる」
二人ともセリフがひどい棒読みだった。
「・・・やっぱり無理だ。お前も全然気持ちが乗ってないじゃないか」
「れもんちゃんの残像が目の前にチラついて、『怪談』どころではござらぬ」
「れもんちゃんに会った直後に、ストーリー性のある話の出来る訳がない。『怪談』は来週日曜の朝にしよう」
「うむ。致し方ありますまい。来週、何もなかったように、しれっと投稿致しましょうぞ」
「それで行けるかな?」
「うむ。下手に悪びれた様子を見せず、何食わぬ顔でしれっとやれば誰も気が付きますまい」
ベンチから立ち上がると、
「よし、そうしよう。悪いのは、凄すぎるれもんちゃんだしな」
「そうでござる」
改札を抜けて、のんびり夜道を歩きながら、空気に微かな秋の気配を感じ取った。
「なんやかんや、いい夏だったなぁ」
「れもんちゃんのお蔭でござる。れもんちゃんがいなければ・・・」
「ただ暑いだけの夏だった」
その言葉を最後に、二人はそれぞれこの夏のれもんちゃんの思い出に浸り切ってしまい、翌朝に至るまでの時間をどう過ごしたか全く記憶がないのであった。
シン太郎左衛門と夏の忘れ物様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門のお絵描き(あるいは『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』の序)様
ご利用日時:2023年8月20日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だ。私が武士ではないのに、なぜ息子が武士なのかは分からない。
日曜日の朝、れもんちゃんに会う日の朝は心が躍る。いつものようにシャワーの後のアイスコーヒーを飲みながら、のんびりしていると、シン太郎左衛門も楽しそうだ。歌い出すに違いないと思っていたら、やはり歌い出した。
笹の葉一枚ありました
アサリが二匹にらめっこ
実験用の試験管
最近暑さが少しマシ
でも今日は突然ムチャ暑い
あ~っと言う間に可愛いれもんちゃん
『れもんちゃん絵描き歌』だが、前回とは歌詞が変わっている。
シン太郎左衛門は「う~む。似ていない」と呻いたが、笹の葉を口に、アサリを目に、試験管を鼻に見立てて、れもんちゃんの可愛い顔が出来る訳もなく、結局、そこまでに出来た変な顔を無視して、「あ~」っと言いながら、れもんちゃんの似顔絵をゼロから描くらしい。
シン太郎左衛門は、さらに歌詞を柿の葉・蛤・ビーカーに替えて再挑戦したが、やはり納得の行く出来には至らないようで、「ますます可笑しなモノが出来た。難しいものじゃ」と天を仰いだ。
「シン太郎左衛門、先週のお前の説明を聞く限り、葉っぱと貝と実験器具に特段意味はないよな。余計なモノを描かず、最初から、れもんちゃんを描いたらよくないか?」
「おお、それは妙案。どうしても、この可笑しな顔に引き摺られて、れもんちゃんの可愛い顔が捉えにくくなってござった」とシン太郎左衛門に描いた絵を見せられて、思わずコーヒーを吹いてしまった。
「では心機一転」と、シン太郎左衛門は、ダイニングテーブルの上に撒き散らされた何百という新品のボールペンを見比べている。
「どれも100均だから、大差ないよ」と言ってやったが聞いてない。「うむ、これがよいようじゃ」とキャップを外し、大きく息を吐いた後、
『南無八幡大菩薩、
我に力を与えたまえ。
とりゃ~!』
と言う間に、可愛いれもんちゃん
と歌いながら、目にも留まらぬ筆捌きで、れもんちゃんの似顔絵を仕上げた。
「おお~、これは上出来。我ながら惚れ惚れする出来栄えじゃ」
「ホントだ。すげえ」
シン太郎左衛門には然したる絵心もないのだが、寝ても覚めても、れもんちゃんの事を考えているので、その似顔絵には鬼気迫る力が籠っていて、かなり本物に肉薄していた。
「う~ん。生き写しとまでは言わないが、妖しい光で見る者の心を蕩けさせてしまう『れもんちゃんの瞳』がよく描けてるな。一瞬ヨダレが出てしまった」
「父上、このあばら家を改築致しましょう」
「なぜだ?やっとローンを払い終わったばかりだぞ。そんな予定も、余力もない」
「この似顔絵は、軸装し、床の間に飾るべきもの。されど、この茅屋には床の間がない」
シン太郎左衛門、予想を遥かに超えた似顔絵の出来に舞い上がってしまい、放っておいたら勝手にリフォームの契約をしそうな勢いだった。
とりあえず話をすり替えようと思い、
「お前は中々芸達者だな。絵描けるし、歌も上手いし、楽器も巧みだ。特に、この前の、あの『れもんちゃん音頭』の楽器演奏には心底驚いた。いつ、どうやって稽古をしたんだ?」
この問いに、シン太郎左衛門は不意を突かれたように、「あっ、あれは・・・」と口籠った。想定外の反応の裏に、何かあるのは間違いなかった。ここで、もう一押しすれば、リフォームの件は完全に封殺できそうだったが、これから、れもんちゃんに会うというタイミングで、シン太郎左衛門のヤル気を殺ぐようなことは避けたかった。
別の話題を探している僅かな沈黙のうちに、シン太郎左衛門が、「実は、あの楽器演奏は、専ら拙者ではござらぬ」と苦笑いを浮かべた。
「えっ?そうなの」
先々週の日曜日の朝の、あの『れもんちゃん盆踊り』の、あの『れもんちゃん音頭』にはバックバンドがいたのか・・・でも、そんなこと、ありえるか?あのとき、部屋には、私とシン太郎左衛門しかいなかったはずだ。
私の頭は大混乱を起こしていた。しかし、
「まあ、いいや。この話の続きは後日にしよう。これから、俺たちは、れもんちゃんに会うんだ」
「そうでござる、れもんちゃんでござる」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
一度れもんちゃんモードに切り替わった我々はもう誰にも止められない。我々は素早く準備を済ますと、そのまま何百回も上記の雄叫びを交互に繰り返しながら駅まで爆走し、いつも通り無駄に早い時間の新快速に乗るのであった。
(次回は、『シン太郎左衛門と音楽』の後日談、『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』をお届けする予定である。夏と言えば怪談でござる)
シン太郎左衛門のお絵描き(あるいは『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』の序)様ありがとうございました。
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今日も、れもんちゃんに会ってきた。今回も、れもんちゃんはやっぱり凄かったので、帰りの電車で早速クチコミを書こうとスマホを取り出すと、シン太郎左衛門が「父上、またクチコミを投稿されるお積もりですな」と言ってきた。
「うん、そうだよ」
「最近、似たような書き振りのものが多い。今回は趣向を変えましょうぞ」
「同じ人間が書けば、似たようなものになる。お前なら、どう書く?」
「ヨーロピアン・テーストがよいと考えまする」
全く意味が分からなかったが、「お前がそうしたいなら、それでいいよ」と答えた。
「更に今回は、お色気を大幅増量で、れもんちゃんの真の姿に迫るというのでは如何でござるか」
「ヨーロピアン・テーストで、お色気満載ね。いいね」
「では、宜しくお頼み申す」
「いや。そうではない。今回は、お前が言うとおりに書いてやる。想いの丈を語ってみろ」
「マジで?」
「だから、そういう言葉遣いはやめろ。品がない」
「うむ・・・拙者が書きまするか」
「そうだ。ヨーロピアン・テーストだ」
「うむ」
「更にお色気増し増しだ」
「うむ」
「俺には、さっぱりイメージ出来ないから、お前に任す」
自らの発言に追い詰められ、しばし沈黙したシン太郎左衛門だったが、「うむ、今更後には引けませぬ。武士の覚悟をお見せ致しましょうぞ。ただ、拙者のれもんちゃんに対する想いは無限に大きい。途轍もなく長くなってもよろしいか」
「お前の思うとおりにしたらいい」
「うむ・・・しかし、ものには限度というものがありまする。野放図に長くては周りに迷惑。短くしてもよろしいか」
「どっちでもいい」
「中ぐらいでも?」
「問題ない」
「中ぐらいより少し長くても?」
「さっさと始めろ」
「うむ。拙者、一度始めますれば、立て板に水でござる。書き漏らしのないよう、お頼み申しまする」
「うむ、安心しろ」
「では、始めまする」
「よし」
「・・・本当に始めてよろしいか」
「さっさとやれ」
「・・・いや、その前に『れもんちゃん音頭』で景気付けを致しましょう」
「いらん。さっさと始めろ」
「うむ。では、始めまする」と、シン太郎左衛門は咳払いをして「拙者、フジヤマ シン太郎左衛門は武士にて候」
「うん」
「これは自己紹介でござる」
「分かってるよ。ちなみに、『フジヤマ』って、どんな漢字?」
「『不二山』でござる。『富士山』でもよろしい」
「分かった。なぜ俺と違う名字なのかは分からんが、まあいい。壮大でよい名前だ」
「いかにも、よい名前でござる。富士は日本一の山でござる」
「知ってる」
「れもんちゃんは宇宙一でござる」
「それも知ってる。次、行こう」
「天保山は日本一低い山でござる」
「早く先に行って」
「うむ。ここから一気にお色気満載で、れもんちゃんに迫りまするが、その前に『れもんちゃん音頭』で景気付けを致しましょう」
「くどい。前置きはもういいから、先に行け」
「では」と、シン太郎左衛門は、5、6回は連続して咳払いをした上で、
「それでは。え~、いわゆる、れもんちゃんのオッパイは・・・」
「ちょっと待て、一つ言い忘れてた。クチコミには、不掲載になることがあるからね。お前が普段俺に話しているような内容だと、投稿を読んだ途端にクラブロイヤルの店長の表情が暗くなり、れもんちゃんと相談の上で然るべき対応を取ることになる」
「つまり?」
「不掲載」
「うっ・・・これだけ苦労して書いたものが不掲載でござるか」
「いや、お前はまだ何もしていない。辛うじて自己紹介を済ませただけだ」
「う~む、オッパイはいけませぬか」
「オッパイがダメだとは言わないが、お前がどう続けるか俺にはおおよそ分かるから一応釘を刺しておいた」
「そんな言い方では何をしてよいかが杳として知れぬ。絶対に不掲載となる例を教えてくだされ」
「たとえば、・・・」と一例を示してやると、シン太郎左衛門は、
「それは、まさしく拙者が言わんとしたこと。そう書けば、不掲載でござるか」
「ああ。間違いない」
「・・・それでは、れもんちゃんのオッパイでなく、れもんちゃんのお尻に代えても・・・」
「オッパイだろうが、お尻だろうが、お前が平素れもんちゃんを語っている言葉は、悉く不掲載だ」
「うっ・・・まさか意中の文章が悉く禁じられるとは思いも寄りませなんだ。拙者、まるで存在を否定されたような悲しい気分でござる。こんなことなら自己紹介もせねばよかった」
「そうしたら、何もなくなってしまう」
「今回は、クチコミをパスするしかありませぬな」
「いや、それは出来ない。『今日もクチコミを書くね』と、れもんちゃんに約束したからな。書けないと言うなら、シン太郎左衛門が馬鹿だから、こんなことになったと、れもんちゃんに説明するしかない」
「なんと!!それは困る!!」
「では書け!!」
「しかし、拙者には、オッパイもお尻も禁じられてござる」
「それがどうした。れもんちゃんは魅力がテンコ盛りだ。他にも書くことはあるだろ」
「まさか、父上・・・」
「何が、まさか、だ」
「・・・父上、まさか、アレを描けと仰せでござるか」
「・・・『アレ』と言って、お前が何を考えているか分からんが、まず俺が思ったのは、あの可愛いお顔について書いたらいいということだ」
「もちろん、拙者の思ったのも同じことでござる。しかし、れもんちゃん程の美人になれば、顔の描写が一番エロくなる。間違いなく不掲載でござる」
「そんな話、聞いたこともない。爽やかに書けばいいだけだ。加えて、れもんちゃんは、小顔で細面にしたフランス人形のような華やかな顔立ちの美人だから、これで、お前が課した『ヨーロピアン・テースト』という無理難題もクリアできる」
「そんなものでござるか」
「そうだ。れもんちゃんはナチュラル・メイクだが、使ってるコスメは、メイド・イン・フランスに違いない。これまた、ヨーロピアン・テーストだ」
「分からぬ言葉がテンコ盛りでござる」
「説明してやる。ナチュラル・メークとは、つまり・・・見たことはないが、れもんちゃんは素顔でも美人だ」
「間違いござらぬ」
「その素材の素晴らしさを活かす、あっさり自然なお化粧がナチュラル・メークだ」
「いや、『ナチュラル・メーク』は存知ておりまする。拙者が分からぬのは、『ヨーロピアン・テースト』の方でござる」
「・・・その言葉を持ち出したのはお前だぞ」
「知らぬものは知らぬ。今日、待合室で隣におられた武士が、先日、伊勢・志摩に旅をした折、ヨーロピアン・テーストの村に立ち寄ったが、大変に趣があった、ヨーロピアン・テーストは良いモノでござると述べておられたばかりのことでござる」
「ちょっと目新しいというだけで、何だか分からぬモノを拾ってきおって、お前はカラスか。それに隣の武士に話し掛けるなと言っておいたはずだ!」
「向こうから話し掛けてきたのでござる!」
しばらく気まずい沈黙が続き、今回はどうにもクチコミが纏められないのではないかと不安になってきた。
「シン太郎左衛門、喧嘩をしている場合ではない。二人で力を合わせて、れもんちゃんのお顔をテーマにクチコミを纏めよう」
シン太郎左衛門は、苦虫を噛み潰したような顔で、「こればかりは、正直自信がござらぬ」
「なぜだ。お尻やオッパイについてはあんなに表現力が豊かなのに、お顔の描写のできぬはずがない」
「それが出来ぬ。父上、考えてもみてくだされ。れもんちゃんと一緒の時間の大半、れもんちゃんのお顔と拙者は物理的に離れているのでござる」
「言われてみれば、そうだな」
「拙者、眼鏡が要るほど視力が落ちておりまする故、なかなか、れもんちゃんのお顔がしっかり見えませぬ。れもんちゃんのお顔が、しっかり見えるほどに拙者にグッと接近するのは、ある限られた場面のみでござる」
「分かった。皆まで言わんでいい」
「お色気増し増しにするなら、ここですぞ」
「いや、もういい」
「うむ。今申した理由で、拙者、れもんちゃんのお顔を思い浮かべると、心拍数がガッと上がってしまい、到底クチコミどころではござらぬ」
「なるほど・・・正当な理由だ」
「うむ、正当な理由でござる」
「今日、我々がクチコミを書けないのは、我々親子が揃って馬鹿だからではない」
「うむ。我々は被害者でござる。れもんちゃんがエロすぎるのが悪い」
「そうだ。れもんちゃんが可愛すぎて、エロすぎるから、こういうことになった。約束が果たせなかった責任は、我々ではなく、れもんちゃんにあるのだ」
「うむ。間違いござらぬ。ところで、父上・・・」
「なんだ?」
「れもんちゃんのお顔をもっとしっかり見たいから、眼鏡、買って」
「眼鏡?お前に眼鏡は似合わん」
「じゃあ、レーシック」
「・・・考えとく」
ということで、結局、今回、シン太郎左衛門は、れもんちゃんの素顔に迫ることはできなかった。