![れもん【VIP】]()
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(『カッパ左衛門、一人で福原に行く』の巻) 様
来店日/選択コース:2025年3月30日/
女の子タイプ:
アタリポイント:
拙者、富士山シン太郎左衛門は武士である。現今、人目を忍んで、カッパに身をやつしておる。
先週のクチコミの通り、父上は島流しの刑をあい、一昨日、つまり金曜日の夜にリュックサックを背負って、「じゃあ、福岡に行ってくるわ」と寂しそうに家を出ていった。
金曜と土曜の晩、一人で広々と布団を使って寝て、実に快適でござった。やっぱりあんなクソ親父はおらん方がよいと、つくづく実感いたした。
そして、今日は、日曜日。巷で言うところの『れもんちゃんデー』。朝9時、拙者、一人旅には慣れぬ故、福原までの遠路を思えば、早めの出立が肝要と心得、キッチンの流しにて冷水で身を清め、洗いたてのカッパの衣装を身にまとうと、愛刀の貞宗(割り箸)を腰に帯びて、台所の小窓から外に出た。
涼やかな風が実に心地よい『れもんちゃん日和』。取り敢えず坂道をヒョロヒョロと下り、国道に行き当たると、「神戸まで、よろしくお頼み申す」と書いた段ボールを精一杯高く掲げてヒッチハイクを始めたが、行き交う車の運転手たちの目に留まることもなく、虚しく時間が過ぎてゆき、多少の焦りが生まれてきたとき、
「あっ!オジさんのカッパだ!」という明るい声がした。それは自転車に乗った明太子ちゃんでござった。
自転車を停めた明太子ちゃんは拙者を摘み上げ、荷カゴに下ろすと、「カッパさん、神戸に行くの?」
拙者が頷くと、明太子ちゃんは「神戸は遠いよ。多分ヒッチハイクじゃ行けないよ」
「なるほど、そういうものでござるか」
「うん、行けない。反省した方がいいよ」
「うむ。では、反省いたそう」
「電車で行かなきゃね。JR新快速に乗るんだよ」
「うむ。何を隠そう、拙者、その電車には詳しい。その電車の正式名称は『スーパーれもんちゃん号』、またの名を『それいけ!れもんちゃん号』とも言う。夢を運ぶ電車でござる」
「そうなの?〇〇駅まで乗せてってあげる」
明太子ちゃんの自転車の荷カゴで揺られ、駅まで快適な一時であった。明太子ちゃんは、駅近のコンビニの前に自転車を停めると、拙者をムズっと掴んで、駅の階段を駆け上がり、駅員さんに「トイレ借りま〜す」と声を掛けて改札を抜け、ホームに向かう階段を駆け降ると、ホームの先頭で列車の到着を待った。
拙者、散々振り回されて目が回っていたが、それが収まると、「明太子殿、忝ない。一生恩に着まする」と伝えた。
「気にしなくていいよ。オジさんにまた買い物に来てって言っておいてね」
『スーパーれもんちゃん号』が到着すると、明太子ちゃんは、運転席の窓を叩き、ドアを開けて出てきた運転手さんに「このカッパさん、神戸駅までお願いします」と拙者を差し出した。
その運転手さんは、いつもクラブロイヤルの入り口で笑顔で出迎えてくれるスタッフさんにソックリな『れもん星人』にソックリだった。
運転手さんは拙者を受け取ると、「いいよ。ところで、明太子ちゃん、もう高3なんだから、バイトばかりでなく、勉強も頑張るんだよ」
明太子ちゃんは「頑張ってるって・・・じゃあ、カッパさん、またね。オジさんによろしく」と、にこやかに手を振ってくれた。
運転手さんは拙者を運転台に乗せると、電車を出発させ、運転中はずっと楽しそうにニコニコしておる。仕事の邪魔はしたくなかったが、どうしても運転手さんと明太子ちゃんの関係が気になって、「お仕事中に恐縮でござるが、貴殿は明太子ちゃんの御親戚でござるか?」と訊いてみた。
運転手さんは、楽しそうに口ずさんでいた『およげ!たいやきくん』の替え歌を中断して、「えっ、僕ですか?僕は『電車くん』。明太子ちゃんの婚約者です」と言った。
訊くんじゃなかったと思った。設定がデタラメ過ぎて、クラクラと目眩がした。こんな馬鹿な設定は父上の仕業としか思われぬ。アヤツめ、福岡に転勤したとか言いながら、まだ近くにいるような気がした。
『スーパーれもんちゃん号』の先頭に陣取って、拙者、久しぶりに『元祖れもんちゃん音頭』をフルコーラス熱唱いたした。電車くんも中々の声の持ち主で、見事なハーモニーを奏でてくれた。二人の名演奏に惹き寄せられて、苦労左衛門ほかオチン武士が集まってきて、やがて100名を越えるオチン武士による大合唱へと発展したが、運転室がギュウギュウ詰めで、電車くんの視界が完全に遮られてしまい、『スーパーれもんちゃん号』は芦屋駅の手前で緊急停車した。
『電車くん』とは神戸駅で握手をして別れた。またいつの日か再会し、『元祖れもんちゃん音頭』を合唱することを固く誓い合った。
さて、ホームに降ろしてもらってからが、一苦労でござった。
読者各位もご存知のとおり、オチンは歩くのが苦手であり、特に人通りが多い道にあっては、酔っぱらいが阪神高速を千鳥足で歩くのと同じぐらい危険な状況に置かれる。危なくて、とても歩けない。乗り物を探すしかない。
ホームを見回していると、いかにも『これから福原に遊びに行きます』顔のスーツ姿の男がいたので、その御仁のズボンの裾に飛び付いて攀じ登り、スーツケースの上に飛び移った。ところが、この御仁の向かった先は『アンパンマンこどもミュージアム』で、すっかり無駄足を踏んでしまった。それから後も、色々な男性に飛び移ったが、どいつもこいつも見当違いな方向に行くので、神戸駅の周辺を行ったり来たりするばかりで一向に福原に辿り着けない。その代わり、短い時間に三度も湊川神社に参拝した。
こんなことを続けておっては、予約の時間までにクラブロイヤルに到着出来ないかもしれない、そう考えると、気持ちが焦ってきた。そして、またしても『ふりだし』である神戸駅に戻ってきて、イカついオッサンの肩から、前をチョコチョコ歩く、リュックを背負ったオッサンに向けて「南無八幡大菩薩!」と胸中で唱えながら飛び移った。頭頂部がハゲかかったオッサンのリュックサックに腰を下ろしてしばらくすると、オッサンはエスカレーターで地下に降り、デュオこうべ浜の手からJR神戸駅の下を通って、デュオこうべ山の手を抜けて、高速神戸駅の方に進んでいく。『この道でよいが、湊川神社に行くではないぞ。電車に乗ろうとしたら斬る』と胸中呟いていると、男は高速神戸駅の改札前で新開地駅方面に左折した。思わずリュックの上で手を叩いた。男は神戸タウンの6番出口から地上に上がり、有馬街道を北上して行く。思わず、「でかした!この調子で、クラブロイヤルまで行くのじゃ!」と叫んでしもうた。すると、リュックサックの主は、
「おい、シン太郎左衛門、2日会わぬだけで忘れたか・・・俺だ」
「おお!この声、この後頭部は〇〇駅前の中華料理屋のご店主!」
「違う。俺だ。父上だ」
「なんと!父上の幽霊だ!」
「違う。化けて出たのではない。さっき新幹線で福岡から戻ってきた」
クラブロイヤルに到着すると、いつもの愛想のよいスタッフさんに笑顔で迎えてもらい、待合室に通された。そこで父上の話を聞かされた。
「金曜日の夜は、博多のホテルに泊まって、翌日、昼前に福岡支店に寄ったんだ。土曜日だから社員の半分も出勤してないだろうと思ってたが、総出でバタバタと作業をしてる。知ってる顔がいたから『何してんの?』って訊いたら『荷造りをしてるよ〜。手伝ってほしいよ〜』と言われて、一緒にキャビネットの書類を段ボール箱に詰めていった。夕方まで飯も食わずに頑張って荷造りを手伝って、フラフラになったからホテルに帰って飯食って風呂に入ろうと思って、『それじゃ帰るね。実は俺、来週から福岡支店でお世話になるから、よろしくね』と言ったら、『助かったよ〜。でも福岡支店は今日で閉鎖だよ〜』と言われた」
思わず「なんと!」と言ってしまうと、父上は拙者の反応に勢い付き、「だろ?俺も思わず『はあっ?』と言ってしまったよ。『この荷物は大阪本社に送るんだよ〜。俺たちみんな来週から大阪に帰るんだよ〜』と言われた。頭が真っ白になって、社長のスマホに電話をかけた。なかなか出ないから一旦切ろうとしたとき、やっと出たかと思ったら、『社長ちゃんは今忙しいよ〜。シマリスちゃんにご飯を上げてたよ〜』と不満そうにヌカすから、『この愚か者め!』と怒鳴りつけて、今日俺の身に起こったことを説明し、『俺は引越し屋さんのバイトじゃないよ〜。社長ちゃんが今、俺の目の前にいたら手が出てるよ〜』と怒ると、『あ〜、そうだったよ〜。福岡支店を閉めることをすっかり忘れてたよ〜。ゴメンだよ〜』と謝られた。『馬鹿も休み休み言った方がいいよ〜。鼻の穴にワサビを詰めて、反省した方がいいよ〜』と言ってやると、『反省してるよ〜。でも、ワサビはイヤだよ〜。それと、シマリスちゃんは可愛いよ〜』と馬鹿なことを言ってきたので、『れもんちゃんの方がずっとずっと可愛いよ〜。宇宙一に宇宙一だよ〜』と言い返し、更にお詫びのしるしとして3万円相当の高級和菓子を贈って寄越すことを条件に和解してやった」と自慢げに語った。
父上も馬鹿だが、父上の周りの人間も馬鹿ばかりだった。
そして、我々親子は、今日もいつも通り、れもんちゃんに会った。言うまでもなく、宇宙一に宇宙一でござった。
れもんちゃんは、父上の顔を見るなり、ニッコリと微笑むと、「父上さん、こんなにすぐに帰ってきちゃダメだよ〜。今日もやっぱり反省した方がいいよ〜」と言って、父上を大混乱に陥れた。
この世には、嫌なことも腹が立つこともゴマンとあるが、れもんちゃんがいれば、そんなことは大概笑って済ませる、そう父上が言っておった。
父上は大馬鹿者だが、時々正しいことを言う。
シン太郎左衛門(『カッパ左衛門、一人で福原に行く』の巻) 様ありがとうございます。